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第15回CGPM 決議5 「協定世界時」(UTC)と称される時系が、極めて広く使用されていること、その時系が多くの場合、報時発信局によって放送されていること、かつ、その放送が利用者に対して、同時に標準周波数、国際原子時及び近似的な1つの世界時(又は平均太陽時としてもよい)を提供していることを考慮し、この協定世界時が、多くの国で法定常用時の基礎となっていることを確認し、この使用が十分に推奨に値するものであると評価する。」この第15回CGPMの推奨により、UTCの利用は無線通信に限らず広く一般に普及することとなった。1972年1月1日のUTC導入時にTAIから10秒遅れた時刻に調整して以降、うるう秒調整は2019年までに合計27回実施されている。特に2000年までの28年間は22回と1年から1年半に1度うるう秒調整が起こっていた [6] 。一方、この20世紀後半の時期は、コンピュータやネットワークなどのデジタル情報関連機器の飛躍的な発展の時期とも重なるため、国際的な標準時としてUTCの需要は大きくなったが、同時にUTCにうるう秒調整を行うことで生じる時系の不連続に伴うデジタル機器の様々なトラブルが問題となり始めた。コンピュータなどでうるう秒調整を行う際に生じるトラブルは大きく分けて2つある。1つは、うるう秒挿入時の時刻である。過去27回発生したうるう秒調整はすべて1秒挿入による調整であった。うるう秒挿入は月末最終日の最後、23時59分59秒の後に1秒挿入され23時59分60秒という時刻を発生させる。しかし、通常のコンピュータなどの電子機器では60秒は存在しない時刻であるため0秒を2回行ったり、1000秒前から1000分の1秒長い1秒を用いて少しずつ時刻をずらしながらうるう秒を吸収したりして対応を行っている。これらの対応をシステム内で統一していないと同期が損なわれる原因となる。もう1つは、うるう秒調整の発生頻度である。うるう秒調整のタイミングは、地球の回転速度に依存し、うるう秒調整の実施は通常調整の半年前に実施されるIERSの告知までわからない。うるう秒調整の発生頻度が不定期になることに加え、事前にその時期がわからないため、処理の自動化が難しい。また自然科学や天文学など長期的な観測データを用いる分野ではUTCによる測定データにおいては測定間隔を計算する際に常にうるう秒調整の有無を考慮する必要がある。これらの問題に加え、ナビゲーションシステムにおける重要度の低下がある。従来の天文航法では、天文時に従った正確な時刻と天体の精密な座標が必須であった。このため世界中のどこであっても天文時に準拠した時刻を受信できることが必要不可欠であり、無線通信規則(Radio Regulations : RR)においてもこのような標準時の通報は、標準周波数報時業務(standard frequency and time signal service : SFTS)として定義されており、WP7Aのメインターゲットのひとつである。ところが、1978年に運用が開始されたGPS(Global Positioning System)が2000年頃には広く一般にまで利用されるようになり、衛星測位システムが一般的になり、ナビゲーションシステムの利用者にとってUTCの必要性が次第に薄れてきた。このようにUTCの需要は大きくなってきたものの、本来の無線通信をはじめとする科学技術アプリケーションの分野ではうるう秒の存在が問題となってきた。1999年、米国はWP7Aへ「DRAFT NEW QUESTION ITU-R [TF.qqq] UTC TIME SCALE」を入力し、UTCとうるう秒に関して検討するよう研究課題案を提案した。この入力文書はWP7Aで議論され2001年に研究課題ITU-R 236/7となったが、この文書をきっかけに2000年からWP7Aにおいて「UTCの将来問題」について本格的な議論が開始された[7]。3.2WP7A及びSG7における議論研究課題ITU-R 236/7における研究課題は3つである。1.ナビゲーション/電気通信システムと一般の時刻利用の双方を満足できる時系への要求事項は何か?2.UTCとUT1の時刻差分は現在及び将来にわたってどこまで許容できるか?3.現在のうるう秒調整の手順は利用者の要求を満足しているか、あるいは代わりの手順が開発されるべきか?WP7Aでは2000年の会合で米国の入力した新研究課題案が議論されるのと並行して上記の研究課題に対応するため「UTCの将来問題(The future of the UTC time scale)」に特化して検討を行うSpecial Rapporteur Group (SRG) on the future of UTCをWP7A内に設けた。3.2.1SRGにおける議論SRGの議長は当初米国のR. Beard氏で、Beard氏がWP7A議長に就任後は米国のT. Bartholomew氏が就任し、2006年まで精力的に活動を行った。SRGは2001年からWP7A会合とは別に会合を行いその結果をWP7Aにフィードバックしていた。240   情報通信研究機構研究報告 Vol. 65 No. 2 (2019)7 時空標準研究室における国際標準化活動

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