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すなわちここで認識の違いが生じているのはUTC、及び標準時系に対する考え方である。ITU-R勧告TF.460-6の改訂に反対している国は、UTCは市民生活のため現状のまま維持し、必要に応じて連続な参照時系(reference time-scale)を構築すればよいとしている。一方、改訂を支持する国及びUTCを維持しているBIPMなどは、現状においても技術分野によってUNIX時刻やGPS時刻などのreference time-scaleが複数用いられており、混乱を避けるためにも標準時系はstandard time-scaleとして1つに統一すべきであるという考え方である。以上のようにRA-12においてITU-R勧告TF.460-6の改訂について更なる検討が必要としてITU-R SG7に差し戻された。しかしながら、ITU-R勧告TF.460-6はRRの第1.14条で引用されていること、またRA-12の議論で途上国がなぜうるう秒廃止の改訂案が出てきたかを理解していなかったことから、WRC-15に向けた会議準備会合(Conference Preparatory Meeting for WRC-15 : CPM-15)においてCPMレポートを作成し、UTCの将来問題をWRC-15の議題とする必要性が生じた。これらを受け、米国を中心にWRC-15に向けた新議題として「UTCの修正等による連続的な参照時系の実現の可能性の検討」を取りまとめ、ドイツ、ブラジル、米国、フランス、日本、メキシコ、ニュージーランドの共同提案でWRC-12に提出され、後にアルゼンチン、イタリアが賛同した [16] 。共同提案はWRC-15に向けたものとして、WRC-12の議題8.2「将来の世界無線通信会議の議題」の中で議論された。筆者はWRC-12には参加していないためWRC-12報告書の該当箇所を抜粋する。「うるう秒の廃止を選択肢の1つとして決議内に明記する共同提案に対し、英国、カナダ、中国が、UTCは長年に渡り世界で広く利用されており、ほとんどの利用において大きな問題は発生していないことから、次回のWRC-15においては連続的な参照時系を世界的に定めることができるかについて技術的な検討を行う、という抽象的記載にとどめる共同提案を提出した。双方の提案に関する議論において、ロシアより、前者の共同提案が「うるう秒の削除」を明示しており、次回のWRC-15における結論を暗に誘導(Pre-judge)している旨を指摘したうえで、英国等の共同提案に対する支持の表明があった。これを受け、英国主導による会合外での調整やDGによる審議が行われた結果、「UTCの修正やその他の手法などの案を含め、連続的な参照時系が実現できるかを検討する」という書きぶりに改めたうえで、本件を議題1.14とすることが承認された。3.3WRC-15に向けた議論WRC-15に向けた議題1.14は下記のとおりである。議題1.14 協定世界時(うるう秒調整)の見直しに関する議題1.14 協定世界時(UTC)の修正又はその他の方法により、連続的基準時刻系を実現する可能性を検討し、適切な措置をとること。3.3.12012年うるう秒調整時のインシデントWRC-12は2012年の1月から2月にかけて開催されたが、同じ2012年6月30日(UTC)の最後に3年半ぶりのうるう秒調整(挿入)が実施された。1997年以降、うるう秒調整は年末(日本時間では1月1日)に行われていたが、2012年のうるう秒調整では近年のネットワーク技術の飛躍的な発展と2012年は15年ぶりの6月末日のうるう秒調整ということもあり、休日であったにもかかわらず世界中で多くのインシデントが発生した。2012年に発生したインシデントはLinuxのカーネルのバグが原因で発生し、例えばJavaで構築されたオープンソースデータベースCassandraやオープンソースプラットフォームHadoopなどでCPU使用率が高騰するなどのトラブルが生じ、これらを用いたアプリケーションが様々な障害を発生させた。有名なところではオーストラリアでカンタス航空の搭乗予約システムが2時間以上ダウンし、400以上のフライトに影響を与えた。日本においても著名なソーシャルネットワークシステム(SNS)やグループウェア、インターネットサービスプロバイダ(ISP)などにおいてもこの障害によるシステム遅延が報告された。これら日本を含めた各国のインシデントは2012年9月のWP7A会合でも報告された [17] 。3.3.2WP7Aの活動2012年から2015年にかけてのWP7Aの活動は議題1.14に対するCPMレポートの作成に多くの時間が費やされた。またWRC-12以降、幾つかの国においてうるう秒に対する対応に変化が生じた。RA-12においては先延ばしの意見を提案したロシアは完全にうるう秒を存続させる側となった。一方、長年にわたりうるう秒廃止に反対の立場をとっていた中国がうるう秒廃止容認の立場になった。これらの国では参加する代表団のメンバーもすべて入れ替えてWP7A会合に臨んだ。会合では、日本、米国、フランスなどを中心に2012年のインシデントなどを基にうるう秒調整のデ244   情報通信研究機構研究報告 Vol. 65 No. 2 (2019)7 時空標準研究室における国際標準化活動

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