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まえがき情報通信研究機構(NICT)で生成されている日本標準時は様々な方法で広く日本国中に供給され非常に多くの方々に利用されており、現代社会では標準時は高い信頼性と精度の両方が要求される社会インフラのひとつと言うことができる。もし、自然災害等により日本標準時が止まる、あるいは間違った時刻を配信した場合、社会に計り知れない影響を及ぼすであろうことは容易に想像できる。幸いにも、これまでNICTが生成している日本標準時が止まったことはなく、また途切れることなくその精度と信頼性を維持してきた。しかし、2011年に発生した東日本大震災の際は、標準時システム自体に影響はなかったものの、福島の標準電波送信所からの送信を長時間停止せざるを得ない状況に陥ったことは、大きな教訓となった。地震大国である日本においては、いつどこで被災するかを予測し完全な対策を施すのは容易ではない。日本標準時は長年にわたり、NICT本部(東京都小金井市)に設置された日本標準時システムにより生成・供給されてきたが[1]、一極集中型のシステム運用を分散型にすることで、被災リスクを減らすことが期待できる。これが日本標準時分散化(分散構築)の最大の目的である。さらに日本標準時の分散化は、システムの拡張性(分散局の追加)・運用の柔軟性(複数の分散局を独立でも統合しても運用可能)においてもメリットが期待できる。NICT時空標準研究室では、日本標準時の更なる信頼性と精度の向上を目的に、日本標準時分散化の研究開発を進めている。本稿では、2で日本標準時分散化の目的及び概要、3で標準時分散化の研究開発について、4で分散化の要となる神戸副局について紹介する。1日本標準時を生成・供給している情報通信研究機構(NICT)時空標準研究室では日本標準時の更なる高度化を目的に、日本標準時分散化の研究開発を進めている。標準時分散化は標準時生成・供給に関するシステムを日本各地に分散化することで、標準時の信頼性と精度の向上を目指すものである。これまで、神戸にあるNICT未来ICT研究所に神戸副局を整備し、分散化に必要となる要素技術の開発を進めてきた。神戸副局は2018年6月に正式運用を開始、これにより現用システムがある東京で標準時の生成や供給ができない場合でも神戸から供給できる体制が整い、標準時の信頼性向上を実現させた。現在、次のステップとして精度の向上を目指し、分散化に適した時系生成アルゴリズムの研究や、遠隔地への高精度時刻周波数供給の研究開発を進めている。NICT has been performing research and development of decentralization of Japan Standard Time for the purpose of the further advancement. Decentralization of JST aims at ensuring reliabil-ity and preciseness of the standard time through decentralization of system relating generation and supply. We have been developing technology necessary for decentralization of JST and es-tablished Kobe Sub-station in Advanced ICT Research Institute in Kobe. Kobe Sub-station started formal operation in June 2018. That increased reliability of JST system by implementing a backup system for the case where generation or supply of the standard time cannot be performed in Tokyo. As a next step, we are developing a new time scale algorithm for JST decentralization system and improving the precision of time frequency supply to a remote place.3-2 日本標準時の分散化3-2Decentralization of Japan Standard Time中川史丸 花土ゆう子 後藤忠広 藤枝美穂 成田秀樹 松原健祐 齊藤春夫 伊東宏之 今村國康 水野道明 岸 浩司 田渕 良 土屋 茂Fumimaru NAKAGAWA, Yuko HANADO, Tadahiro GOTOH, Miho FUJIEDA, Hideki NARITA, Kensuke MATSUBARA, Haruo SAITO, Hiroyuki ITO, Kuniyasu IMAMURA, Michiaki MIZUNO, Koji KISHI, Ryo TABUCHI, and Shigeru TSUCHIYA213 ⽇本標準時システム

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