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標準時分散化の概要と目的分散化の対象となる標準時システムとは、日本標準時を発生・維持し、その時刻を様々な方法で供給する各システムである。それらは時刻の基となる原子時計群、標準時を発生させる標準時発生システム、原子時計や生成時系の時刻差を計測する計測システム、遠隔地の時刻差を計測する時刻比較システム、生成した時刻を配る供給システム、これらのシステムに異常がないか監視する監視システム等から構成されている[1][2]。4で述べる標準時分散化による神戸副局運用開始前は、これら標準時システムは標準電波の送信を除き、東京都小金井市にあるNICT本部にのみ設置されており(小金井本局と呼ぶ)、長時間の停電等小金井本局の運用に重大な障害が生じた場合、日本標準時生成の停止やその供給が止まるおそれがあった。標準時分散化では、標準時システムに含まれる各システムを日本各地に分散化させ衛星等でリンクすることがその技術開発の基本となる(図1)。この際、単に小金井本局のシステムをコピーするのではなく、分散化の拠点となる各局に必要なシステムとその局に適した規模のシステムを設置し、局間の時刻比較リンクと制御監視に使用するネットワークを構築・運用することで、日本標準時の信頼性と精度の向上を目指した。運用は以下のプロセスとなる。1.複数の局に分散設置した原子時計を衛星仲介でリンクする。2.集めた全時計のデータを各局が共有する。3.各局が独立に合成原子時を生成する。元データを共有するのでほぼ同一の原子時系が生成される。各合成原子時を相互比較することで異常判断にも有用である。4.各局は、自局・他局いずれかの合成原子時を基に標準時を出力する。通常は、小金井本局の生成する時系を日本標準時とする。このシステムの構築により、次の3点を実現させることが標準時分散化の研究開発の目的となる。(1)信頼性の向上各地に設置された原子時計と標準時発生システムにより、日本標準時に準じた時系を生成することが可能となる。標準時の生成には原振としての原子時計のほかに長期安定度の良い複数台の原子時計により計算される合成原子時が必要になる。仮に小金井本局以外の局においても複数台の原子時計があれば、小金井本局と同じ手法により、独立した時系の生成が可能になる。これにより、例えば小金井本局で自然災害等により標準時生成ができなくなっても、別の局で標準時を生成することで、連続かつ安定した標準時の維持が可能となり、標準時の信頼性が向上する。(2)精度の向上標準時発生システムにより生成される標準時の周波数安定度は、短期は周波数参照(原振)の原子時計の、長期は合成原子時の安定度に依存する。合成原子時は、時系生成アルゴリズム[3]により計算で求められるが、使用する原子時計の台数が増えるほどその安定度は向上する。しかしながらこれまでの日本標準時システムでは小金井本局の原子時計のみが利用されていた。標準時分散化では、時刻比較リンクにより各地に設置されている原子時計間の時刻差を計測・計算できることから、リンクに接続された全ての原子時計を合成原子時計算に組み込むことが可能になる。これにより、合成原子時の長期安定度が向上し、結果として日本標準時の精度向上につながることになる。ただし、遠隔地間の時計を合成するには、時刻比較リンク間の誤差等を考慮し分散化に適した時系生成アルゴリズムが必要になり、それらの研究開発が必須となる。(3)日本標準時の供給拠点の拡張前述したように、標準時発生システムを設置した局では標準時に準じた時系の生成が可能になる。これらの局では小金井本局が使用できないときのバックアップとしてだけではなく、通常は日本標準時に非常に高い精度で同期した時系としての使用や供給も可能となる。時刻比較リンクの精度や標準時発生システムにおける制御方法に依存するが、供給拠点が増えることで、利便性や信頼性の向上が図られる。標準時分散化は、小金井本局のコピー局を作成することで万一の事態に備えるという単純なものではなく、大元となる原子時計を分散させて設置し各局の原子時計を利用することで、信頼性と精度の両方の向上を、さらに新たな供給方法の開発を目的としている。2図1 標準時分散化のイメージCsCsCsCs神⼾副局CsCsNICT本部送信所送信所CsCs CsCs⽇本標準時22   情報通信研究機構研究報告 Vol. 65 No. 2 (2019)3 ⽇本標準時システム

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