開発が必要となる。また、時刻差データの生成に遅延が生じる場合、発生システムの周波数制御の遅れが生じそれが誤差となることから、遅延と精度のトレードオフを考慮した発生システムにおける制御方法の検討が必要となる。(2)については、局内の原子時計や生成時系との時刻差を定期に計測するシステムである。計測対象にその局の基準時系を含めることで(1)の時刻比較とつながり、結果として全局内の原子時計の時刻差が計算により求まることになる。各局の計測システムはその局に設置される原子時計の構成により異なる。例えば小金井本局では多数の水素メーザーが設置されていることから、より精度と分解能が高いマルチチャンネルDMTDシステム(Dual Mixer Time Difference Sys-tem)[7]を計測システムに採用し運用している。一方、セシウム原子時計のみが設置されているおおたかどや山局とはがね山局では、1ppsの信号をタイムインターバルカウンターと高周波スイッチにより切り替えながら計測するシステムを設置し運用している。(3)については、分散化専用のデータベースを構築、また各局にバックアップサーバを構築することで信頼性の向上を図っている。このデータベースに蓄積された時刻差データを元に、各局で時系が生成されている。同時に、小金井本局と各局間のネットワークが断絶した場合でも、その局内で時系を生成かつ安定運用できるように設計し準備してある。3.3各システムの構築 2で述べたように、標準時システムでは様々なシステムから構成されており、標準時分散化では各局に必要なシステムと規模を選択し構築されている。標準時分散化では、主に次のシステムから構成されている。〇原子時計群すべての局に設置される。その本来の目的は各局、原子時計ごとに異なる。種類としては、主に発生システムの原振として使用される短期安定度の良い水素メーザーと、長期安定度を生かした合成原子時に使用する、また長波標準電波の標準周波数に使用されるセシウム原子時計がある。〇標準時発生システム実際に日本標準時を発生させるのに必要となるシステム。原振である原子時計とその周波数を高分解能で調整する周波数調整器等から構成され、時系信号の生成・制御を行う。日本標準時としての運用が必要な局には設置される。〇監視システム原子時計のステータス、各種時刻差、システムの設置された部屋の環境等を監視・記録し、異常があった場合は通知するシステム。すべての局に設置されるが、局の構成に応じて規模が異なる。〇データベース分散化システムは、各局がスタンドアロンでも統合化されても機能することが求められるため、情報の共有・相互比較・監視がスムーズに行える運用システムを構築し、そこで必要となるデータベースを構築した。〇供給システム生成した日本標準時や日本標準時に準じた時刻を供給するシステム。電話回線を利用したTEL-JJY[2]や光TEL-JJY、インターネット回線を利用したNTP[8]等複数ある。3.4時系生成アルゴリズムの開発日本標準時は複数台のセシウム原子時計の合成原子時を基に生成される[3]。合成原子時は原子時計間の時刻差データを基に時系生成アルゴリズムにより計算される。分散化システムにおける合成原子時アルゴリズムは、基本原理は現状のアルゴリズムと同じであるが、現状のアルゴリズムが単一の計測システム内のデータのみを用いるのに対し、標準時分散化では遠隔地の時計データも使用することとなる。その際、時刻比較リンクの誤差や計測された時計データの同時性等について考慮する必要が生じる。また、時刻比較リンクの異常により時刻飛びなどが生じた際に、いかに検知できるか、また除去・復旧するか等、分散化に適した手法の開発も必要となる。最終的には2で示した運用形態を実現する時系生成アルゴリズムの構築を目指すが、これまでの成果については、4に記載する神戸副局での実例を参照いただきたい。神戸副局の開設本章では、小金井本部にある現用の標準時システムと対をなす神戸副局について紹介する。分散局の要となる神戸副局は、小金井本部が災害等により標準時の発生が停止しても、標準時生成を途切れさせず、また可能な限り連続して標準時を供給すべく、本部のシステムに準じる構成として設立を進め、2018年6月より副局としての正式運用を開始している。それぞれの局の構成の違いについては、表2を参照のこと。副局の構築にあたり、最初に設置場所の選定を行った。本局がある東京都小金井市が自然災害等にあったとしても影響を受けにくく、基本インフラを確保しやすい場所であること等の条件を考慮し、兵庫県神戸市にあるNICT未来ICT研究所が選定された。続いて、標準時システムの安定運用に必須となる原子時計や各システムを運用する恒温恒湿室、停電対策424 情報通信研究機構研究報告 Vol. 65 No. 2 (2019)3 ⽇本標準時システム
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