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標準電波送信所の運用近年の標準電波送信所の運用について説明する。送信所現地での運用では、標準電波送信の維持監視業務や施設の維持点検業務のほか、施設が山頂付近にあるという特殊性から、厳しい天候への対応が重要になる。また近年には老朽化した送信設備の更新を行った。3.1標準電波送信の監視制御業務おおたかどや山送信所とはがね山送信所の2局体制で24時間連続運用を行っている。送信所には昼夜交代で常に複数の監視員を配置して、専用回線による送信所間の遠隔監視も併用しながら、日常の電波と設備の監視制御を行っている。送信所現地に監視員を配置することで、アンテナへの落雷の危険など緊急時にも迅速かつ適切に対応できている。また日常点検により装置の異常を早期に発見して、設備を安定に維持している。送信所監視員とNICT本部の標準電波担当者は、常に連絡が取れる体制になっている。さらにNICTでは現在、より高安定で高精度な日本標準時の発生と供給を目指して、標準時発生システムの分散配置を進めている[3]。2018年6月10日からはNICTの未来ICT研究所に日本標準時の副局が設置された。ここにも標準電波の監視装置を設置している。標準電波の現在の送信状況は、日本標準時のホームページ[4]を通じて知ることができる。また標準電波運用情報として、停波予定の周知と停波後の報告を行っており、Twitterや携帯電話用ホームページでも運用状況を周知している。ホームページでは、送信された標準電波の精度の周知として、NICT本部での日々の受信周波数の偏差と相対位相差の情報、さらに衛星時刻比較による送信標準周波数の日本標準時からの偏差の月報を提供している。また標準電波の電界強度予測値(実測値で実証された理論により計算)と強度マップを公表し、図3で示すように、各地でどの程度の受信強度が見込まれるかなどの詳しい情報を提供している[5]。3.2標準電波施設の維持点検業務送信所施設を安全に維持し運用するため、敷地内警備には監視カメラなども利用している。警備会社を通じてその映像や各扉の開閉信号などを確認している。また井戸水の水質検査を定期的に行い、来訪する外部作業員には強電界区域などでの注意事項を説明し、さらに敷地内外の倒木、転石、土砂流失などを確認して必要な対応を行っている。日常の点検業務に加えて、消防設備などの各種の法定点検や、年次定期保守を行っている。年次定期保守では登録検査等事業者により実施する無線局検査用のデータ取得を行っている。例年おおたかどや山送信所では9月上旬頃に、はがね山送信所では10月下旬頃にそれぞれ10日程度かけて送信設備、整合設備、空中線、監視制御設備、電源設備、局舎設備の保守点検と補修を集中して行う。年次定期保守に伴う計画停波については、その予定をNICTのホームページなどに掲載している。3.3落雷への対応標準電波送信所は共に山頂付近にあり、また高さ200m以上のアンテナ鉄塔があることなどから落雷被害を受けやすい。おおたかどや山送信所の場合、アンテナ給電点での供給電圧は150kV程度になる。避雷器を設置して雷の高い電圧を地絡(アース)させるが、その作動電圧は150kVより高く設定する必要がある。そこで送信中に落雷した場合、アンテナにつながった送信設備には最大150kVを超える電圧が印加して、設備の破壊や火災など大きな被害が発生する可能性がある[6]。送信設備にはアーク放電の検知機能があり、小さな落雷や誘導雷を検知した段階で送信を自動停止して送信機を保護することから、大きな落雷による故障発生には通常至らない。しかし突然大きな落雷を受けることもあって、これまで被害を受けてきた。そこで雷発生を詳細に把握するために、両送信所では、気象情報提供業者から地域のリアルタイムの雷発生情報と予報を取得するとともに、敷地内に静電界測定による雷レーダーを設置して周辺の落雷の可能性を判断している。このほかにも無線ノイズ、稲妻や雷鳴、アンテナ周辺の放電、アンテナ供給電流の変化などから落3図3 標準電波電界強度予想マップ(2019年8月の0時JSTおおたかどや山40kHz)32   情報通信研究機構研究報告 Vol. 65 No. 2 (2019)3 ⽇本標準時システム

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