信が不能になった。既に警戒区域に指定された送信所周辺への立入りには自治体の許可が必要だったが、極めて多忙な地元の川内村から献身的な支援を頂いて、立入りのたびに許可書が発行された。復旧のための立入作業はまず5月9日と10日に行われた。委託運用業者と協議を重ねて、福島県白河市に仮事務所を設け、これ以降は状況に応じて停波と一時立入りによる送信再開を繰り返す運用を行った。また並行して送信設備を遠隔操作する改修を突貫で進めて、8月末に送信業務の多くを遠隔で行える改修を完了した。これにより2011年9月13日以降は、NICT本部に出勤する監視員が24時間体制で送信所の遠隔監視制御を行った。震災から6月末までに、利用者などからNICTへの苦情を含む問い合わせの電話やメールは500件以上に達した。遠隔監視制御により送信所の通常の運用業務が可能になったが、現地の天候を体感的に判断できず、雷害回避のための停波がそれまでより長時間必要になった。それでも突然の落雷で送信機の故障が相次ぎ、一時立入りの修理が繰り返された。2012年4月1日からは送信所の周辺が警戒区域から避難指示解除準備区域に移行されて、一時立入りに自治体の許可が不要となった。標準電波の復旧には川内村の貢献が多大であったことから、NICT理事長から川内村に感謝状を贈呈した(図8右)。2012年10月頃には送信所周辺で国の除染作業が行われた。その後、送信所の敷地が含まれる田村市都路地区では2014年4月1日から避難指示解除準備区域の指定が解除され、これ以降、おおたかどや山送信所に監視員が常駐して監視制御する時間を、段階的に増やしていった。また川内村では同年10月1日から、避難指示解除準備区域の指定が解除された。東日本大震災は日本がこれまで遭遇することがなかった、広域かつ国のインフラに大きな損壊をもたらした災害のひとつと言える。これに対して日本標準時の供給はどのように準備するべきかという課題を提起した。これ以降の日本標準時の供給には、甚大災害への緊急対応の検討が必須になっている。長波帯標準電波送信所の開局20周年を迎えて:まとめと将来おおたかどや山標準電波送信所が開局以来、2019年6月10日で20周年を迎えた。はがね山送信所との2送信所体制で、国内全域で標準電波を利用できるようになった。その結果、電波時計が広く普及し、公共から家庭まで時計の時刻調整から解放される契機となった。携帯電話などの情報端末が普及した現代に、常に正しい時刻を利用できる便利さは不可欠なもので、標準電波は社会の基礎インフラに発展したと言える。一方で、高精度周波数の供給としての標準電波の役割は、長波帯への移行により精度は十分なものの、手軽な可搬型の高精度周波数標準器が普及したこともあり、利用が減少している。NICTでは標準電波受信機によるより簡便な周波数遠隔校正を開発している[10]。20年以上安定して長波帯の標準電波を送信することは容易ではない。台風や降雪の予報、地震情報などに注意し、送信所への影響を予測して状況を把握した。それでも東日本大震災のような予想外の災害は発生し、復旧に向けた迅速な対応を行ってきた。また送信所の安定運用には地元自治体の貢献が大きく、さらに保守や装置開発では各専門業界にお世話になった。NICT内でも、広報部、財務部、企画系部門などの協力を得て課題を解決してきた。加えて標準電波送信所の経費として安定した予算が確保され、災害時などには復旧のための予算が速やかに処置されてきた。既に長期にわたる送信所運用では、近年には、アンテナや送信所までの専用道路の老朽化の問題が発生している。また送信所周辺では、登山など観光開発や風力発電など再生エネルギー開発が活発になっており、共に発展するような意見交換が必要になっている。世界の最新技術はより高精度な周波数標準を必要としており、標準周波数の供給について新たな手法の検討が求められてきている。今後もNICTは、世界最高クラスの精度の標準電波を国内に安定供給することを維持しながら、時代に合った新しい時刻・周波数の供給方法を検討して、新しい情報化社会への要請にこたえるように努めたい。【参考文献【1http://jjy.nict.go.jp/QandA/reference/chrono_table.html2栗原則幸, “長波標準電波,” 通信総合研究所季報,vol.49,nos.1/2,pp.167–173,2003. 今村國康, “日本標準時の運用と供給,” 情報通信研究機構季報,vol.56,nos.3/4,pp.87–95,2010.3https://www.nict.go.jp/info/topics/2018/06/180612-1.html4http://jjy.nict.go.jp/5土屋茂, 今村國康, 伊東宏之, 前野英生, 久保田実, 野崎憲朗, “長波標準電波の電界強度測定法の開発と測定,” 情報通信研究機構季報,vol.56,vos. 3/4,pp.97–108,2010.6今村國康, 岩間司, 土屋茂, “長波標準電波とその活用,” 電気学会 電子回路研究会, 2012.7http://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/toppuu/thunder1-3.html8総務省設置法第4条1項679標準周波数局の運用(総務省告示第382号) 10齊藤春夫, 岩間司, 今村國康, 小竹昇, 土屋茂, “標準電波(JJY)を用いた周波数遠隔校正システムの開発,” 電気学会 電子回路研究会, 2009.11岩間司,齊藤春夫,小竹昇,成田秀樹,今村國康,北口善明(金沢大), “標準電波を用いた周波数遠隔校正システムのフィールド実験,” 電気学会 電子回路研究会, 2013.6373-3 長波帯標準電波送信所の運用
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