2010年秋以来、およそ9年ぶりの時空標準特集号である。前回の緒言では、当時の大きな動きとして、国際相互承認と秒の再定義がある、と記した。国際相互承認は、基準や手続などがほぼ確立し、着実に加盟国を増やして定常運用モードに入ってきている。一方、秒の再定義については、そろそろ最後の追い込みに入ってきた感がある。2000年ごろに始まった新たな原子周波数標準による秒の再定義も、達成すべき具体的な要件が明確にされ、18桁という次世代がターゲットとする高精度にふさわしい、標準器や時系発生システムの開発及び定義変更の妥当性を証明できる高度な国際時刻比較が着実に進展してきている。これらに加えて新たに大きな課題となってきたのが、広範囲なICT利活用から、IoT、AIを活かしたスマート社会の実現への動きであると言えよう。そこには、従来より、方法においても精度においてもはるかに多様な時間周波数標準供給への要求が現れ始めている。このような状況の中で、NICTの時空標準における最近の取組、そしてその成果をまとめたものが本特集号である。かなめとなるべき日本標準時の発生供給システムについては、2006年の現用システム運用開始から、必要な改良等は行ってきた一方、次世代に向けた更新が必要となってきている。その中で、災害対策と信頼性向上のための副局を神戸に設置する計画は大きく進められ、仕上げの段階に入っている。時刻供給では、電話回線の交換機廃止などの変更に伴い、従来のテレホンJJYから、高速ネットワークを活かした新たな光テレホンJJYが開発され、実運用が開始された。秒の再定義に向けた光周波数標準の研究開発では、光格子時計とイオン光周波数標準が着実に成果を挙げている。これらの標準を他の標準と比較し、達成された精度に対して国際的に承認を得る、という点では先端的な独自開発成果である衛星双方向搬送波比較技術、小型アンテナを活用した広帯域VLBI技術などと連携することでNICTは世界を牽引している。また、光格子時計を基準とする時系構築を世界に先駆けて成功させ、光周波数標準の国際原子時への貢献を果たしたことなどは、非常に先進的であり、標準時と光周波数標準の技術が連携することで初めて可能になった。また、新時代のIoT利活用には、これらの研究を基盤とした新たな技術として無線双方向時刻比較技術(WiWi:ワイワイ)、超小型原子時計(CSAC)などの研究も、世界的に独自性の高い技術が進展してきており、多様な要求に応こたえる新たなピースとして、様々な応用、利活用が期待されている。これらは個々の成果の和というより、標準時の発生供給という業務から、光、マイクロ波の原子周波数標準、国際時刻比較技術、宇宙測位技術、そして時代の要求にこたえる新たな標準供給、これら広い分野で先端的な研究開発を続けてきたNICTが、各技術単独ではなく有機的な技術間連携を目指して2005年ごろから10年以上かけて取り組んできたことによる相乗的な成果がようやく見えてきた、ととらえることで、より全体像を理解できるように思う。まだその連携、融合は途上ではあると思われるが、本特集号が、そのような観点からNICTの最近の時空標準分野の成果をご覧いただく一助となることを期待する。細川瑞彦 (ほそかわ みずひこ)情報通信研究機構理事理学博士時空計測、時刻・周波数標準1 緒言1Introduction細川瑞彦Mizuhiko HOSOKAWA11 緒言
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