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ドリフトが水素メーザーの周波数変化に合うようにゆっくりとした制御をかけることで、短期安定度は冷却サファイア共振器の短期安定度と同等、長期の周波数値は用いた水素メーザーの値と同じ、という性能の1GHz信号を発生させている。この1GHz信号は40mの同軸ケーブル経由でCsF1とCsF2を運用している部屋に運ばれ、9.193GHz Up-converterの基準信号として使われる(1GHz Down-converterと9.193GHz Up-converterの詳細は[10]を参照。)このようにして、冷凍機型冷却サファイア共振器の信号を基準に超高安定な9.193GHz信号源が作られ、ラムゼー共鳴の励起に使われている。図5に、CryoCSOの信号が1GHz信号に変換され、その後9.193GHzに変換される流れを示す。原子泉型一次周波数標準器の動作サイクルと周波数安定度原子泉型標準器は、原子捕獲、上方への打ち上げ、ラムゼー共鳴、検出を1つのサイクルとして、繰り返し動作している。レーザー冷却により約108個のセシウム原子を捕獲し、ドップラー極限温度(数百μK)まで冷やす。CsF1で磁場勾配を利用するMOTで原子を捕獲しているが、CsF2ではレーザー光の力だけで光モラセス(optical molasses:光と原子の相互作用により原子が一点に集められ糖蜜(molasses)のようになっている状態)を作っている。冷却捕獲された原子集団はmoving molasses法(下向きのレーザー光の周波数をCs原子の共鳴周波数から低く、上向きのレーザー光の周波数を高くし、捕獲している原子集団に上向きの初速度を与える方法)[12]で鉛直方向に打ち上げる。打ち上げ初速度は(レーザー光の波長)×(上下のレーザー光の周波数差)(CsF2の場合は3倍)で与えられ、CsF1、CsF2共に約4m/sである。打ち上げられた原子集団の温度が高いと熱拡散により検出部にまで到達できる原子数が減るため、初速度が与えられた原子集団を偏光勾配冷却(polarization gradient cooling: PGC)により約2µKまで冷却している。この時点でCs原子は基底状態の超微細構造準位のF=4状態にそろえられている。この原子集団が選択用共振器を通過する際、共振器に基底状態の超微細構造準位間に相当するマイクロ波(9.192GHz)を加えると、F=4の原子のうち磁気副準位mF=0の原子が選択的にF=3, mF=0に励起される。このF=3状態に励起される原子数は共振器に加えるマイクロ波の強度によってコントロールできる。F=4の他の副準位の原子は横方向からのレーザー光により吹き飛ばされ、吹き飛ばされなかったF=3の原子だけそのまま上昇飛行を続ける。F=3の原子はラムゼー共振器内でマイクロ波と一度目の相互作用し、共振器の上40cm程度に達した後落下を始め、下降しながらラムゼー共振器を通過する時に再びマイクロ波と再び相互作用する。この2回のマイクロ波相互作用によってラムザー共鳴が引き起こされる。ラムゼー共鳴によるF=3からF=4への遷移の確率は、検出部で、F=4状態にいる原子が発する蛍光強度(N4)とF=3状態にいる原子が発する蛍光強度(N3)を独立に測定し、規格化(P=N4/(N4+N3))することで求めることができ、その遷移確率が一番高い周波数が、秒の定義で規定される周波数9 192 631 770Hzということになる。NICT-CsF2で観測されたラムゼー信号を図6に示す。遷移確率が一番高い周波数(ラムゼー信号の中心周波数)はマイクロ波の周波数をラムゼー信号の中心に安定化することで求めている。具体的には、f0をマイクロ波の中心周波数、をラムゼー信号の半値全幅とした場合、ちょうどラムゼー信号の傾きが急になる周波数f0-とf0+で信号強度を測定し、この2つの周波数での信号強度が等しくなるようにマイクロ波の中心周波数を調整する(f0→f1)。f1が求まったらまた2つの周波数f1±における信号を取得しf2を求める。このようしてラムゼー信号の中心と思われる値f0, f1, f2・・を記録していき、これを平均した値を3図5 CryoCSOからFountainまでの周波数変換の流れ372   情報通信研究機構研究報告 Vol. 65 No. 2 (2019)4 原⼦周波数標準

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