HTML5 Webook
79/258

ラムゼー信号の中心周波数とする。得られたCsF1とCsF2の周波数安定度を図7に示す。周波数シフトとその評価方法 1でも述べたとおり、秒の定義は無摂動状態下のCs原子の共鳴周波数が基準となっているため、一次周波数標準器開発では、考えられうる全ての周波数シフト要因を評価できるように本体の内部構造、光学系、マイクロ波源、制御方法、などをデザインし、全体システムを構築した後、それぞれの周波数シフトの評価方法に基づきシフト量の大きさをその値の不確かさと共に決定している。この周波数シフトの評価方法は唯一無二のものではなく、世界各国の一次周波数標準器開発者が更なる高精度化を目指して新たな評価法を検討している。以前の情報通信研究機構季報[9]では、その当時主流の評価方法及びNICTで実際に行い得られたシフト量とその不確かさについて紹介した。評価方法が変わらないものに関しては今回割愛し、評価法を変えることにより不確かさを小さくできたもの、以前の評価法では理論的には実験的にも不十分だったもの、以前の評価の際には考慮されていなかったもの、などについて紹介する。4.1断熱通過法による衝突シフト評価Cs原子の原子泉型一次周波数標準器において、冷却原子間の衝突による周波数シフトは無視することができない。Cs原子は数μK程度まで冷却されるとド・ブロイ波長が大きくなり、その結果、衝突断面積が大きくなる。そのためCs原子の原子泉型標準器の衝突シフト量は大きい。信号に関与する原子数を減らせば衝突シフトは小さくできるが、その代わり信号に関与する原子数に大きく依存する周波数安定度は悪くなってしまう。衝突による周波数シフト量は次式で表される。 (nは原子数、vは原子の相対速度、は衝突断面積) (1)(1)式から分かるように、原子集団の速度分布を保った状態(原子の相対速度も衝突断面積の変化しない状態)で、原子数nを変えて周波数測定を行えば、直線近似によりn=0の時の周波数値を概算することができる。この方法を使うには、前述したように、原子集団の状態を変えずにnを変えることが必須である。レーザー冷却の条件やレーザー光による打ち上げ条件を変えることによりnを変えることはできるが、ラムゼー共振器に到達する原子集団の状態も変わってしまうため、正しく周波数シフトを評価できない。そこで、原子捕獲や原子打ち上げの条件が全く変えずに、選択用共振器にフィードするマイクロ波信号の条件を変えることで、信号に関与する原子数を変化させる。具体的には、F=4, mF=0状態にいる原子にマイクロ波を当てF=3, mF=0状態に励起させ、n1とn2の2種類の状態を作りだし、打ち上げごとにその条件をスイッチすることで基準信号のドリフトなどの影響を受けずに衝突シフトを評価する。以前はマイクロ波信号の強度のみを変えF=3, mF=0状態に励起する原子数を変化していた。しかし、この方法だとマイクロ波信号の強度ノイズや共振器内の通過場所により励起率に揺らぎが発生し、正確に周波数シフト量が評価できないという問題があった。実際、前回の特集号執筆時点では、CsF1の衝突シフトの不確かさは衝突シフト量の20%を与えていた。衝突シフト量が大きくなるとそれに合わせて不確かさも大きくなるため、励起する原子数を4図6 CsF2で観測されたラムゼースペクトル-150-100-500501001500.00.20.40.60.81.0-3-2-10123 HzTransition ProbablitiyCF - 9192631770 (Hz)図7 Cs1とCsF2で得られた周波数安定度10010110210310410510-1610-1510-1410-13Allan DeviationAveraging Time (τ) CsF1 CsF2734-2 原子泉型一次周波数標準器 NICT-CsF1 & NICT-CsF2

元のページ  ../index.html#79

このブックを見る