らぎは1%以下であることを確認した。高速断熱通過法は、レーザー冷却された原子集団の形や相対速度、マイクロ波信号の強度揺らぎ、選択用共振器内の定在波の強度分布、などに影響を受けずに原子数を制御できる手法であり、衝突シフトが大きいCsF1だけでなく、衝突シフトが比較的小さいCsF2にも導入している。双方共に、衝突シフトの不確かさは衝突シフト量の1%を与えている。4.2 真空チャンバーの温度コントロールと黒体輻射シフトCsF1とCsF2は25℃(±0.2℃)で非常に安定に室温管理された実験室内で運用されているため、当初、本体真空層の積極的な温度調整は行っていなかった。その後、室温管理された実験室においても、実験室中央に設置された温度センサーから離れた場所での温度揺らぎが比較的大きかったことが判明したことと、真空層内に設置された円筒型のラムゼー共振器自身の共振周波数をCs原子の共鳴周波数と完全に一致させた方が共振器の特性に依存するシフト量をより低減することができるため、本体の真空層に温度制御を施すことにした。温度制御は真空層の外側に巻かれた非磁性ヒーターを用いて行うが、その際留意すべきことは、制御電流によって発生する磁場である。非磁性のヒーターは折り返してツイストぺアにして真空層の外壁に巻き付け、制御電流も直流電流ではなく100kHzの交流電流を流すことにより、なるべく磁場を発生させない工夫をしている。また、この温度制御は原子泉型周波数標準器の動作サイクルの原子捕獲のプロセスの間だけで実施し、原子とマイクロ波が相互作用する時間帯では温度制御をOFFしている。CsF1とCsF2のラムゼー共振器の共振周波数は機械工作精度に依存しており、その共振周波数がCs原子の共鳴周波数に合うようにCsF1の場合は30.7℃、CsF2の場合は26.8℃で温度安定化されている。黒体輻射による周波数シフトは次の式で表される[15]。(2)温度勾配や温度センサーの確度を考慮して、温度の不確かさは±1K(0.2×10-15)としている。4.3 共振器内の位相分布に依存する周波数シフト熱原子ビーム型の一次周波数標準器の場合、ラムゼー共振器の部分は2か所に離れており、共振器の特性の違いが周波数シフトを引き起こすため、共振器の特性をできる限り同等にする必要があった。その点、原子泉型は同じ共振器を上昇時と下降時の2回通過してラムゼー共鳴を引き起こすため、同一の特性を持つ共振器を2つ用意する必要はない。しかし、ラムゼー共振器内の定在波の位相は均一ではなく、打ち上げられた原子集団の共振器内を通過する場所が、上昇時と下降時で異なる場合、その位相差によって周波数シフトが引き起こされる。この周波数シフトは、Distrib-uted Cavity Phase(DCP)シフトと呼ばれ、その大きさはφ φ (r, r’:原子集団が上昇時と下降時通過する場所、T :ドリフト時間)で表される。対向する2方向からのマイクロ波フィードを持つ円筒型共振器内の場所による位相差の最大値は次式で与えられ[16]、∆φ(3)(Qcavity :共振器のQ値、:共振器の上下に開けられた原子集団が通過する穴の半径、rc :円筒型共振器の空洞部分の半径)共振器のQ値を20 000、rc=28mm、=6mmとすると位相差の最大値は3×10-7radである。これは対向する2方向からフィードされるマイクロ波の位相が理想的にそろっていると仮定した場合の値であり、2つのマイクロ波フィードの位相差dϕがずれている場合はこの値より大きくなる。そこで我々はdϕ ⁄5図10 CsF1に高速断熱通過法を適用した時の励起される原子数の変化-20-10010203040500.000.250.500.751.00ratiodB half/full-20-10010203040500.000.250.500.751.00Number of selected atoms (normarized)dB full half10010110210310410-410-310-210-1Averaging Time (sec)SRAV of ratio (half/full) stability of ratio754-2 原子泉型一次周波数標準器 NICT-CsF1 & NICT-CsF2
元のページ ../index.html#81