まえがき時間の単位である秒は、国際単位系(SI)の7つの基本単位の1つである。1967年に秒が暦表秒からセシウム133(133Cs)原子の基底状態のマイクロ波遷移で再定義されて以来、既に50年が経過した。この定義を現示する*のがマイクロ波領域のCs原子時計である。近年ではマイクロ波よりも高周波である光領域の原子時計(光周波数標準)の研究開発が精力的に進められている。光周波数標準の主な方式には、欧米発の単一イオン光時計と東京大学香取秀俊教授が考案した日本発の光格子時計がある。NICTのストロンチウム87(87Sr)光格子時計[2](NICT-Sr1)を含め、Cs原子時計の精度を凌りょう駕がする光周波数標準が既に報告されており、複数の光周波数標準で18桁以上の精度が実現されている[3]–[7]。これを受け、光周波数標準を実現する原子の光学遷移で秒を再定義することが国際度量衡委員会傘下の時間・周波数諮問委員会CCTF (Consultative Committee for Time and Frequency)で検討されている[8]。NICTでは、より高精度な日本標準時JST (Japan Standard Time) [9][10]及び国際的な標準時系である協定世界時UTC (Coordinated Universal Time)の維持・高精度化を目的に、郵政省電波研究所(RRL)の頃より次世代周波数標準の基礎研究を行っている。2004年からは単一カルシウムイオン(40Ca+)光時計の開発[11]を開始し、2006年からは87Sr光格子時計の開発[12]、そして2011年からはインジウムイオン(115In+)光時計の開発[13]を始めている。1NICTでは次世代の周波数標準として、ストロンチウム光格子時計(NICT-Sr1)の研究開発を行っている。近年の光周波数標準の発展は目覚ましく、秒の定義を最もよく現示するセシウム一次周波数標準の精度を既に凌りょう駕がしている。これを受け、国際単位系における秒の再定義が検討されている。この再定義前後で秒の長さの連続性を維持するには、候補である光周波数標準の絶対周波数(現在の定義を基準にした周波数)を精度良く測定することが必要不可欠である。本稿では、国際的な標準時系である国際原子時(TAI)を利用したNICT-Sr1の絶対周波数測定について報告する。このTAIは一次周波数標準によって定常的に校正されているが、TAIの維持及び高度化には高精度な光周波数標準がこの校正に参加することが求められる。これに貢献するには、周波数標準としての国際認定を取得する必要がある。2018年NICT-Sr1はこれを取得し、既にTAI校正に寄与し始めている[1]。本稿ではこの認定取得についても報告する。A strontium-87 optical lattice clock has been developed at NICT (NICT-Sr1) as a next generation frequency standard. Recently, optical frequency standards have dramatically improved and sur-pass cesium primary frequency standards in accuracy and stability. This triggered considerations in the Time-and-Frequency community of redefining the SI second. For any replacement candi-date, a precise measurement of the absolute frequency in terms of the SI second is essential to maintain continuity before and after the redefinition. Here, we explain our absolute frequency measurement using International Atomic Time (TAI). We also report on the international certifica-tion for contributing to the calibration of TAI, which is regularly performed by the microwave prima-ry and secondary frequency standards. Following the certification, NICT-Sr1 has now started to contribute to the calibration [1].4-3 NICTにおけるストロンチウム光格子時計の開発4-387Sr Optical Lattice Clock at NICT蜂須英和 Nils Nemitz 李 瑛 石島 博 井戸哲也Hidekazu HACHISU, Nils NEMITZ, Ying LI, Hiroshi ISHIJIMA, and Tetsuya IDO*計量標準の分野では、実現や具現化することを“現示する”と表現する。794 原⼦周波数標準
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