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(1)レーザー冷却及び捕獲真空槽の中で500℃以上に加熱したSr金属片から原子線を生成する。この原子線に対向するようにSr原子の遷移強度の大きいスピン許容遷移1S0 – 1P1に相当する波長461nmのレーザーを照射して、数100m/sの原子を減速する。次に、3軸の6方向から適切な周波数と偏光を調整したレーザーを照射して、減速の時と同じ1S0 – 1P1遷移を利用したレーザー冷却法により原子を数10cm/sに相当する数mKまで冷却しながら捕獲する。そして、より低温に冷却するのに適した遷移強度の小さいスピン禁制遷移1S0 – 3P1に相当する波長689nmのレーザーを用いたレーザー冷却に切り替えてさらに原子をおよそ1cm/sに相当する数µKまで冷却しながら捕獲する。これを1s足らずで行っている。(2)光格子による原子の捕獲適切な周波数を選ぶと原子は光強度の強いところに集まる性質があるため、これを利用して数千個から数万個の冷却原子を光の定在波(光格子)に捕獲する。原子のエネルギー準位は、光格子を構成するレーザーの周波数や偏光、強度に依存する。そこで、光格子を適切な条件に調整すると、特定の遷移に対して、あたかもレーザー光が無い時と同様な分光ができる。このときの光格子の波長(周波数)を魔法波長と呼んでいる[16]。(3)分光原子を分光する前に、スピン偏極という方法で適切な初期電子状態を準備する。その後、自然線幅が数mHzのSrの時計遷移1S0 – 3P0に相当する波長698nm(周波数429THz)の時計レーザーによって原子を分光する。(4)状態検出時計レーザーにより原子が励起状態3P0に遷移していれば、遷移強度の大きいスピン許容遷移1S0 – 1P1に相当する検出レーザーを照射しても、原子は光を吸収・放出しない。反対に、3P0に遷移していなければ、検出レーザー光を吸収・放出するため、高感度カメラなどでその放出光を検出できる(量子シェルビング法[17])。これを利用して、原子の状態を検出する。(5)時計レーザーの周波数を調整分光結果を利用して、音響変調光学素子AOM (Acousto-Optic Modulator)の周波数を調整することで、時計レーザーを原子の時計遷移周波数に安定化する。実際の時計動作では、時計レーザーの周波数を時計遷移に相当する周波数から少しだけ周波数シフトさせて、励起率が50%程度になる原子スペクトルの肩に相当する周波数に調整している。スペクトルの両肩を分光すれば、時計遷移の中心周波数からどちらにどれだけずれているかが分かるので、これを時計レーザーの周波数安定化に利用している。環境(温度や磁場、捕獲する光格子の条件など)によって、時計遷移の周波数は無摂動の周波数からシフトする。可能な限りシフトが小さくなるように設計しているが、完全にシフトを除去することはできないため、実験的あるいは理論的に可能な限り正確に補正する。この補正量の不確かさが、その周波数標準の確度である。3で紹介するNICT-Sr1(図2)の絶対周波数測定の際に評価した補正量の不確かさを表1に示す[2]。詳細は文献[2]に譲るが、このときのNICT-Sr1については、原子を捕獲するための光格子、真空槽内の原子が受ける室温の黒体輻射、原子間衝突によるシフトが主な不確かさ要因であり、その確度は5.7×10–17であった。Intermittent評価法(光周波数標準の間欠運転によるマイクロ波周波数標準の評価法)            絶対周波数測定には大きく分けて2つの方法がある。1つは、ローカルの一次及び二次周波数標準を基準にして周波数決定する方法で、もう1つは世界中の一次及び二次周波数標準が校正しているTAIの歩度を利用して周波数を決定する方法である。ローカルな周波数標準を基準にした測定では、マイクロ波周波数標準の統計不確かさが十分小さくなるまで測定する。そして、近年ではマイクロ波周波数標準の系統不確かさで決まる測定が実現されており、高精度な一次及び二次周波数標準を有する機関ではこの方法で高精度な絶対周波数測定を実現している。一方で、TAIを利用した測定では、TAIをローカルに現示する各機関独自の標準時系UTC(k)や水素メーザーなどのマイクロ波周波数標準を仲介周波数標準としてGNSS(全球測位3(a)(b)図2 (a)NICT-Sr1の真空装置と光学系の一部(b)光格子の概念図パンケーキ状に並んだトラップ領域に複数の原子を捕獲する。捕獲した原子に光格子の光軸方向から時計レーザーを照射する。814-3 NICTにおけるストロンチウム光格子時計の開発

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