衛星システム)や通信衛星を利用した時刻・周波数比較(衛星リンク)を経由してTAIを基準とするため、衛星リンクの統計不確かさが十分小さくなるまで、測定時間を積算する必要がある。光周波数標準はマイクロ波周波数標準に比べて安定度が高いため、一般的にはこの方法では衛星リンク不確かさや仲介マイクロ波周波数標準に起因する不確かさが主な不確かさ要因になる。ここまでは、TAIを基準に光周波数標準を評価する場合の話であっただが、この反対に光周波数標準を基準にTAI評価する場合も同様に、衛星リンク不確かさや仲介周波数標準の安定度に制限された測定になる。そこで我々は、光周波数標準とTAIを仲介するローカルな周波数標準を、間欠運転する光周波数標準で効率よく評価(Intermittent評価法)し、衛星リンクの平均化時間を延ばすことでリンク不確かさを抑制し、光周波数標準とTAIの間のリンク不確かさを改善する方法を提案している[18]。本節では、このIntermit-tent評価法について紹介する。まず標準時系の生成方法を通して、NICT-Sr1とTAIの関係を整理しておく。国際度量衡局BIPM(Bureau international des poids et measures)は、世界中の標準研究所などから400台以上もの原子時計の情報を集め、それらの加重平均から自由原子時EAL(Échelle Atomique Libre)を計算する。BIPMは、世界に10数台の国際認定を受けた一次及び二次周波数標準によるEALの歩度評価を集め、周波数を校正し、標準時系TAIを決定している。そして、TAIと地球の自転に基づく時系のひとつである世界時UT1との時刻差の絶対値が0.9sに収まるように±1sステップでうるう秒調整した国際的な標準時系がUTCである。したがって、TAIとUTCの歩度(周波数)は正確に同じである。TAI及びUTCはBIPMが算出する時刻であり、実際の時刻信号は存在しないため、このままでは実生活で利用するには不便なため、各国の標準研究所などでは、自局の原子時計を利用するなどして、UTCを実信号としてローカルに現示した標準時UTC(k)(”k”は機関名の略称)を生成している。毎月BIPMが発行する月報Circular Tで、前月のUTCとUTC(k)の5日ごとの時刻差UTC−UTC(k)が1か月分報告される[19]。ちなみに、Circular Tでは修正ユリウス日MJD(Modified Julian Date)の下1桁が、4か9の日の時刻差が報告される(例えば、2019年7月10日に対応するMJD58674など)。そのため、TAIを利用した光周波数標準の評価では、この5日間を1つの単位としている。図3はIntermittent評価法による5日間の評価を示している。図3の縦軸は適当な周波数ν0からの偏差をν0で除した無次元量(ここでは「規格化周波数偏差」とする)横軸は時間である。図3(a)は仲介マイクロ波周波数標準にUTC(k)を採用した場合である。NICT-Sr1とUTC(k)、TAIをTAIの歩度で規格化した周波数偏差をそれぞれ 、 、 とする。次式で示されるように、斜線部の面積AはUTC(k)とTAIの5日間の時刻差の変化量を表している。A=() =[UTC()−UTC]−[UTC()−UTC] (1)BIPMはCircular Tで5日ごとの時刻差を報告するが、この5日の間は の に対する周波数揺らぎは分からない。この5日の間にNICT-Sr1を連続的に運用して、NICT-Sr1とUTC(k)の時刻差( と の間の面積)を測定することは、マイクロ波標準で従来から実施されている方法で、一般的な方法であり、我々もNICT-Sr1の連続運用によって時刻差を評価した実績がある[1]。一方で、我々はIntermit-tent評価法を適用してNICT-Sr1のより短い運用時間で効率よくUTC(k)を評価することを提案している。図3(a)に示したように、この5日間の間にNICT-Sr1の数時間の測定を間欠的に3度行って、 を基準に を評価することを考える。この測定結果から、NICT-Sr1とUTC(k)5日間の平均周波数差を見積もる場合には、測定していない間の の周波数の揺らぎに起因する不確かさ(デッドタイム不確かさ)を考慮する必要がある。これに対し、図3(b)のように、5日間の間にNICT-Sr1の数時測定をより多く、かつ等間隔に実施することを考える。Intermit-表1 NICT-Sr1の周波数シフトとその不確かさ単位は10–17。無摂動状態の光学遷移周波数を得るために、複数の要因による周波数シフトを評価し、補正する。その時の不確かさが周波数標準の確度。このときのNICT-Sr1の確度は5.7×10–17であった。シフト要因シフト不確かさ黒体輻射–511.12.0光格子による光シフト(スカラー/テンソル)–2.73.8光格子による光シフト(4次)0.20.11光格子による光シフト(E2/M1)0 0.5時計レーザーによる光シフト–0.10.1dcシュタルクシフト–0.120.16二次ゼーマン–52.20.3原子間衝突–4.12.8残留ガス衝突01.8ラビ引き込み00.1サーボエラー01.5計–570.15.782 情報通信研究機構研究報告 Vol. 65 No. 2 (2019)4 原⼦周波数標準
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