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の1か月間の計7か月間にわたりTAI秒を評価し、結果の確証を得るために所内の光–マイクロ波リンク系(Erコムを含む光からマイクロ波への変換、水素メーザー信号の日本標準時システムからNICT-Sr1の実験室までの伝送に起因する不確かさ)に関する詳細な検証を済ませた後、WG-PSFSに報告書を提出した。その審査の結果、2018年11月に光周波数標準としてはLNE-SYRTEの87Sr光格子時計に続いて2例目となる二次周波数標準の認定を取得した。そして、その翌月の12月に実施したTAI評価結果がBIPMに採択され、光周波数標準としては世界で初めてBIPMが行う直近のTAI歩度校正値決定に貢献した[1]。その後も3回のTAI校正に参加している。WG-PSFSに提出した報告書には、NICT-Sr1でTAI秒を評価した結果と共に、NICT-Sr1の周波数標準としての信頼性を示すために、これまでに行ってきた絶対周波数測定と本特集[34]の他光周波数標準との直接周波数比較や高精度時系実信号生成についても報告した。これまでのマイクロ波一次及び二次周波数標準やLNE-SYRTEの87Sr光格子時計によるTAI秒評価では、評価する期間中それらの周波数標準をほぼ連続運用する方法を採用していた。採用していたというよりは、これを常識としていた。一方で、私たちは、光周波数標準のIntermittent評価法によるTAI秒評価を提案し、この方法で従来の一次及び二次周波数標準相当のTAI秒評価ができることを実証した[35]。Intermittent評価法では、周波数標準の間欠運転を基にTAI秒を評価するため、運用しない間に周波数標準の系統不確かさの評価やシステムのメンテナンス、あるいは改良、さらにはこの間に周波数標準を他の実験へ適用することも可能である。評価方法は、絶対周波数測定と同様にTAI秒と光周波数標準の相対評価である。絶対周波数の時と異なる点は、3時間程度の測定を毎日ではなく、1週間に1度行ったことである。つまり、対象とする1か月あたりのTAI秒の評価には4回または5回の測定結果を利用した。もう1つの違いは、NICT-Sr1を国際的な周波数標準として利用するため、NICT-Sr1の周波数にCCTF2017会議で更新された秒の二次表現としての87Sr 1S0 – 3P0遷移の推奨周波数429 228 004 229 873.0Hz [8] [36]を適用したことである。図4のように、Erコムを用いてNICT-Sr1から精度の高い100MHzを生成し、これと水素メーザー100MHzを位相比較する。このとき、絶対周波数測定と同様に平均化と異常検出のために複数の水素メーザーの平均を利用した。その結果を図8に示す。縦軸は水素メーザー群の規格化周波数偏差、横軸は評価期間である。この期間では5回分のデータを一次フィッティングして、1か月間の水素メーザーの平均周波数を得た。日本標準時システムの水素メーザー群とUTC(NICT)の時刻差データ及びCircular Tに報告される時刻差UTC-UTC(NICT)を利用して、1か月間のTAI秒とNICT-Sr1の平均周波数比を評価した。Circular Tには、一次周波数標準などが定常的に行っているTAI秒の評価結果も掲載される。この表記法に従って、審査申請時に提出した7か月分のTAI秒評価のうちから1か月分の不確かさを例として表3に示す。ここで、uA/SrはNICT-Sr1自身の統計不確かさで、NICT-Sr1の安定度1×10–14/√ に正味の測定時間を考慮して評価している。uBはNICT-Sr1の系統不確かさ、ul/LabはNICT-Sr1で水素メーザーを評価する際の不確かさである。従来のTAI秒校正では周波数標準を連続的に運用しているため、ul/Labは統計的な不確かさのみで十分である。一方、我々が提案するIntermittent評価法では、測定のたびに周波数コムなどの測定系を立ち上げ、1日の間でほぼ同じ時間帯に測定するため、システムの温度均一化効果による系統不確かさも含めた方が良いと判断した。現在のCircular Tでは、統計不確かさと系統不確かさはまとめられて1つの不確かさul/Labで報告されるが、私たちは将来の必要性を見越してこの2つを分けて報告している。ul/Labの内訳は、水素メーザーの周波数評価で行う一次フィッティングの不確かさHM(フィッティング)とデッドタイム不確かさHM(デッドタイム)、計測系の不確かさDMTDを統計的な不確かさと考慮し、一方で、Erコムを含む光–マイクロ波リンク系の不確かさを系統不確かさとして計上した。本特集[24]にあるように、現在では光–マイクロ波リンク系の不確かさは10日間連続運用でより精密に評価されている。Intermittent評価法では、HM(デッドタイム)による不確かさを十分に検討する必要がある。このノイズを抑制するためにNICT-Sr1の運用をTAI-1.5x106-1.0x106-5.0x1050.05.0x1051.0x1061.5x106-2.80-2.75-2.70-2.65-2.60-2.55-2.50-2.45(×10-13)(s)図8 Intermittent評価法による1か月間の水素メーザー平均周波数評価86   情報通信研究機構研究報告 Vol. 65 No. 2 (2019)4 原⼦周波数標準

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