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(衝突)の頻度を高めていく。これによって微小管が自己組織的に大きな渦パターンを創り出した。ダイニンの上を滑走する微小管は、互いに衝突しながら、やがて運動の向きをそろえはじめ、何本もの太い流れを創出した。さらに、運動開始から10分ほど経たつと、突如として大きな渦パターンを創出し、これらの渦が実験槽全面にわたってアレイ状に整列した(図2C、D)[10]。渦の直径は400 µmにも達し、渦ごとのばらつきは小さかった。天然に存在するダイニンには、いくつかの亜種が存在する。このうちの3種類について同様の観察を行ったところ、ダイニンの種類によって形成される渦の大きさや内部の微小管の回転方向のばらつき、渦構造の安定性に違いがあることが分かった。つまり、集団運動の帰結としての渦形成は、構成要素の特性を反映しているのである。ここで観察された渦形成は、液体を下から加熱した際に規則的な対流セルが発生するレイリー・ベナール対流[11]とは異なるものである。レイリー・ベナール対流は非平衡散逸構造であるが、各対流ロールは受動的分子で構成されており、システム全体は外部との巨視的境界を介して提供されるエネルギーによって平衡状態から解離している[12]。これに対して、数万のダイニンと微小管から構成されているこのシステムでは、化学エネルギーを力学的運動に変換するタンパク質モータの連続運動によって平衡から解離するのである。このナノメートルスケールの運動やマイクロメートルのスケールのネマティック相互作用がこの階層的な自己組織化を成し遂げている。上記のように集団運動としての記述に加えて、創出原理の理解には要素過程を明らかにする必要がある。図2In vitro運動アッセイで創発する微小管束の渦構造。 A. in vitro運動アッセイの概略図。 タンパク質モータをガラス基板に吸着させて、その上を蛍光標識した微小管を滑走させる。B. 微小管の個別の挙動は、稀薄な密度で検証し、挙動を明らかにできる。その後微小管の密度を上げて、集団運動を創出させる。C.軸糸ダイニンによって駆動された多数の微小管がネマティック相互作用の結果創り出す渦構造。直径はおよそ0.4㎜にも及ぶ。D. 微小管束が形成する渦構造は、実験槽のガラス表面全体に格子状に広がる。112-2 生体分子による動的秩序形成の仕組み ナノメートルサイズの生体分子の動的相互作用が創つくり出す規則的構造

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