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は最少のタンパク質要素で構築した。精製した微小管とタンパク質モータ(キネシンの一種であるキネシン–5)を用いたのである。キネシン–5は、微小管の+端に向かってそれ自身が動くモータで、4つのモータ領域を持っている。微小管上を運動するだけではなく、複数のモータ領域を使って、微小管同士を架橋する働きを示す。エネルギー源はATP(アデノシン三リン酸)である。キネシンは溶液中に加えたATPを結合して、これを加水分解し、そのエネルギーを使って微小管同士を滑らせるだけではなく、キネシン–5自身も微小管の+端に集積させる。この結果、少量のキネシン–5と微小管はATP存在下で星状体(微小管を放射状に伸ばした星のような形状をした構造体)を形成する。この混合溶液は、大きなネットワーク構造を形成する。ミリメートルにも広がる実験槽を準備してネットワーク構造のダイナミクスを観察した(図4)。微小管の+端に集積して星状体構造を形成するキネシン–5は、その濃度が低い場合には、星状体同士を接続するものの全体構造は変化させない(静的ネットワーク)。しかし、キネシン–5の濃度を上げると、微小管ネットワーク全体はゆっくり縮みはじめ、やがてネットワークの一部が崩壊して急激な収縮を生じた。微小管より200倍も柔軟で、比較的短いフィラメントでできているアクチンフィラメントのネットワークでは、このような収縮はマイクロメートル・スケールで頻繁に観察され報告されてきた。しかし、ロッド状の硬い構造、星状体のような放射状構造を作る傾向にある微小管での収縮のサイズやメカニズムはアクチンの場合と大きく異なっている。ミリメートルに広がる実験槽の中をくまなく観察することで、微小管ネットワーク全体が収縮することを観察できたのである。高々10マイクロメートルほどの長さしかない微小管図4微小管ネットワーク構造の自己組織的形成。 A. 数理モデル構築のための微小管―キネシンネットワークの粗視化とノードとリンクへのダイナミクスの導入。B.様々な比で混合した微小管とキネシンが創り出すネットワーク構造の相図。132-2 生体分子による動的秩序形成の仕組み ナノメートルサイズの生体分子の動的相互作用が創つくり出す規則的構造

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