のBurgess博士らと共同で、ネガティブ染色電子顕微鏡法と単粒子画像解析法を使い、内腕ダイニンcの力発生時の構造変化を解析した。ダイニンcを選んだ理由は、ダイニンcが頭部を一つ、ある程度の大きさを持つ尾部を一つ持つダイニンで、ダイニンの中では比較的単純な構造を持つからである。2003年に、力発生前後の状態で固定したクラミドモナス内腕ダイニンcの構造の詳細を明らかにし、発表した[10]。ダイニンは中央にチャンネルのあるドーナッツ状の頭部に尾部からリンカーと名付けられた構造に繋つながり、リンカーリングの結合点を起点にダイニンヘッドがテールに対して約26度回転することを明らかにした[10](図4B)。頭部の回転により微小管結合部位は約15 nm移動した。その後、生体内では頭部の回転によりリンカーを巻き取る、まるでウィンチのように動作することが明らかになったが、リンカー結合部を起点に頭部リングが回転することは正しいことが明らかになった。現在では、細胞質ダイニンの結晶構造が解かれ、より詳細な構造が分かっている。図4Aに概略図を示す。ダイニンは、AAA+タンパクの一つとして分類される(解説、参考文献[11][12])。AAAタンパクとは、ATPases Associated with diverse cellular Activitiesの略で、が頭部リングの端から端まで橋渡した後に頭部リングに繋がること、ダイニンの力発生時にリンカーと頭部ATP分解のエネルギーを使い機能を果たすタンパク質のグループで様々な機能に分化している。多くの場合それぞれがATP分解活性を持つAAAサブユニットによる6量体のリング状の構造をとる特徴がある。2003年時点の構造解析では、頭部リングとその上のサブドメインは観察できたがどのように繋がるのか、C末領域はどこにあるのかなど、不明な部分が多かったが、現在はすべて解明されている。およそ4500アミノ酸残基から成る巨大なタンパク質、ダイニンは、そのN末端1/3はテールと呼ばれ、軽鎖や中間鎖などが結図2 鞭毛軸糸の構造A:クラミドモナス鞭毛軸糸横断面の電子顕微鏡像、鞭毛の基部から先端方向を眺めていることに相当する。二重染色、超薄切片電子顕微鏡法。B:C.周辺微小管上の鞭毛ダイニンの配列。Dに観察方向を示す。BCD、クライオ電子線トモグラフィ法による像。B:内腕ダイニンの配列。fα, a, b, c, e, g, dの頭部はほぼ1直線に並んでいる。aとb、cとe、gとdは頭部を1個しか持たないダイニンだが鞭毛内では隣接してペアを形成する。2個の白矢印は96 nm周期中2か所存在する外腕と内腕の繋つながりを示す。ODA、ダイニン外腕.IDA、ダイニン内腕。C:外腕ダイニンの並びを横から眺めた図。外腕の3個の頭部(α、β、γ)リングはA小管と平行に積み重なるように配置する。D:周辺微小管を長軸方向に眺めた図。 N-DRC、ネキシン(周辺微小管同士を繋ぐ構造)。図3 局所滑りによる屈曲発生のイメージShingyoji et al., [9]の実験を模式的に表したもの。鞭毛の屈曲を2本の繊維間のずれで簡易に表現。鞭毛軸糸に局所的にATPを加えると局所的に滑りが発生し、滑りが発生していない領域との間に屈曲が発生することが示されている。鞭毛内においても、周辺微小管間の滑りの偏在が屈曲発生の原因であると考えられている。192-3 調和された鞭べん毛もう運動を引き起こすモータタンパク質、“鞭毛ダイニン”の機能及び構造の多様性
元のページ ../index.html#23