HTML5 Webook
24/72

合する(図4A)。この部位のアミノ酸配列はダイニンの種類によって大きく異なり、それぞれのダイニンを足場に固定する役割を持つ。残り2/3の領域が微小管の滑り運動発生を担うモータ領域である。モータ領域には6つのAAAドメイン(AAA1-AAA6)があり、リング構造をとる。テールと最初のAAA1を繋ぐ構造はリンカーと呼ばれ、AAAリングを横断する。AAA4のC末端から長さ約20 nmのストークと呼ばれる突起が突き出る。その先端が、ダイニンの動きと同期して、タンパク質レール、微小管と相互作用する(図4A)。微小管結合部位を先端に持つストークを支えるように位置するストラット(バトレスとも言う)という構造の存在が、結晶構造解析により明らかになった。しかしながら、後にネガティブ染色電子顕微鏡法でも観察できていたことが明らかになった。しかし、分解能不足でどのように繋がっているのか分からず、我々には、どのようなものか想像できなかった。2.2鞭毛ダイニンの構造の多様性我々の研究室では60Lものクラミドモナスの培養から鞭毛軸糸を単離し、そこから高塩濃度溶液で鞭毛ダイニンを抽出、陰イオン交換クロマトグラフィによって各種の鞭毛ダイニンを精製し、実験に使用している。それぞれのダイニン分子をネガティブ染色電子顕微鏡法で観察し、その像を単粒子画像解析法でクラスター解析しクラス分けした後に、クラス内で平均した結果を図4に内腕ダイニン[13]、図5に外腕ダイニンについて示す。ダイニン頭部の構造はどれもよく似ており、特に、尾部が下方にあるとき頭部の右側からネックが突き出て見られるライトビューと呼ばれる方向からの像は相似性が高い。尾部の形態は多様である。尾部形態の多様性の理由の一つには、ダイニンが配置された場所から頭部を隣り合うB小管と相互作用できる決められた所に位置させるためであると考えられる。例えば、前述したように外腕ダイニンの3個の頭部リングはA小管と平行に積み重なる[7] (図2C 外腕の破線)。前述したように、ダイニンは尾部に対して頭部リングが回転するように動き、頭部リングからリング面に沿って突き出たストークの先端に結合した微小管を引くようにして動かすと考えられている[10][14]。それから考えると外腕ダイニン頭部の配置は一見奇妙である。しかしながら、軸糸の横断面を見てみると、各頭部リング平面の延長上に隣の周辺微小管のB小管が位置しており(図2D)、A小管上に積み重なった頭部の配置は隣の周辺微小管との相互作用に好都合であることが分かる。つまり、外腕ダイニンは3個の頭部それぞれが機能できるように適した形をしている。また、6種ある内腕ダイニンのうちダイニンb、e、gは、ダイニンa、c、dと比較して尾部が4 nm程短い。鞭毛軸糸内では、ダイニンbはダイニンaと、eはcと、gはdとペアを作り、頭部同士が近接する。周辺微小管上では、ダイニンa、c、dは同じプロトフィラメント(微小管長軸方向のチューブリン分子の並び)上に配置する。一方、ダイニンb、e、gは、1本隣の1段高いプロトフィラメント上に配置する。頭部の位置を調節するためダイニンb、e、gの尾部を短かくしているのだと考えられる。2.3鞭毛運動調節タンパク質を尾部に結合したダイニン細胞内で様々な機能の調節因子として働くCa2+は、鞭毛や繊毛の運動波形を変化させる信号として働く。クラミドモナスでは、高Ca2+濃度(pCa5以上)で鞭毛打は非対称から対称的な波形になり、細胞は後退する。外腕ダイニンγ重鎖は、γ重鎖欠失株の運動性やカルモジュリン類似の軽鎖を尾部領域に結合していることから、Ca2+による波形変化との関わりが示唆されている。また、ダイニンb、e、gは、カルシウム結合タンパク質セントリンをダイニンfは生体内でリン酸化を受ける中間鎖タンパク質を尾部に結合している。尾部に結合したタンパク質がどのようにダイニンの機能を調節するのか、ネガティブ染色電子顕微鏡法とその像の単粒子画図4 力発生時の内腕ダイニンcの構造変化A:内腕ダイニンc構造の模式図[10][11]、ネガティブ染色電子顕微鏡法と単粒子画像解析で得られた分子像を対比させた。電子顕微鏡像は透過像なのでヘッド上のリンカーなどは他の構造と重なってよく見えない。B:ネガティブ染色電子顕微鏡法と単粒子画像解析で明らかになったダイニンヘッドの回転(電子顕微鏡像は参考文献[12]を改変)。20   情報通信研究機構研究報告 Vol.66 No.1 (2020)2 バイオ材料の知に学ぶ

元のページ  ../index.html#24

このブックを見る