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像解析により外腕ダイニンγ重鎖の分子形態対するCa2+イオンの効果を調べた[15]。外腕ダイニンは通常3個の頭部を持つが、高塩濃度抽出の過程でその結果、1)ヘッドの構造にはCa2+濃度上昇による変化は見られなかった。2)Ca2+が存在すると、γ重鎖の尾部の屈曲しているものが多く観察された。3)角度分布を調べると、テールにある折れ曲りが低Ca2+濃度では曲がり角が小さく、高Ca2+濃度下では分布が大きく広がることが分かった(図6)。この観察結果は、鞭毛運動には軸糸内のダイニンヘッドの空間配置が重要で、ダイニンテールの形態でダイニンヘッドの空間配置を少し変化することで鞭毛の運動が調節されることを示唆する。2.4鞭毛ダイニンの運動特性繊毛・鞭毛上に配列する複数種のダイニンは、繊毛・鞭毛運動において機能分化していることがクラミドモナスの突然変異株を用いた研究から明らかになっている。ダイニン外腕を欠失すると、鞭毛波形に大きな変化はないものの鞭毛打頻度が顕著に低下する。さらに外腕ダイニン内のα、β、γ3種の重鎖間にも機能的差異が見られる。αとγの頭部を欠失してもダイニン外腕は一定の機能を保持するが(野生株と外腕欠失株との中間的な運動性を示す)、βの頭部を欠失すると外腕としての機能をほとんど失う[16][17]。一方、ダイニン内腕が全て失われると、鞭毛の運動性は失われてしまう。部分的な欠失では、鞭毛打頻度の低下は少ないが、鞭毛打の振幅が減少するなどの波形変化が生じる(ダイニンf、ダイニンa、c、d、ダイニンa、c、d、e欠失株など)。内腕ダイニンcを欠失した場合と内腕ダイニンfを欠失した場合では運動の力学特性の様相が大きく異なる。内腕ダイニンcだけを欠失した変異株は、通常の粘度の液体培地中では野生株とほとんど変わらない運動性を示す。しかしながら、細胞周りの粘度を上昇させると、推進力(遊泳速度×粘性抵抗係数)が野生株に比べて大きく低下する。ダイニンfを欠失した変異株は、推進力は野生株の1/3になるが、粘度を10倍に上げても推進力はほとんど変化しない[18]。精製したダイニンを顕微鏡のスライドグラスに吸着し、その上を運動する微小管を観察するインビトロ運動アッセイにおいても、鞭毛ダイニンの運動性が多様であることを知ることができる。内腕ダイニンと外腕ダイニンに大きな特性の差がある。それは、タンパク質モータがアクチンや微小管などのレールから解離せずに複数ステップ運動する能力、連続運動性(processivity)である。外腕ダイニンは連続運動性が低く、微小管の連続運動を発生するために多くの分子を必要とする。一方、内腕ダイニンは、高い連続運動性を示す(図7A)。鞭毛ダイニンは、多分子で滑り発生をすることから、どれも連続運動性は低いと考えられていたのでこの結果はある意味驚きであった。最初、ダイニンcの連続運動性が高いことが見いだされたが、その後ダイニンf 及びダイニンeの連続運動性も高いことが分かり、連続運動性が高いことは内腕ダイニン共通の性質であることが示唆される。内腕ダイニンが鞭毛打の振幅の増大する機能を持っていると考えると長時間の微小管保持は必要な性質なのかもしれない[19]–[21]。複数種類存在する鞭毛ダイニンは、それぞれ異なる図6 外腕ダイニンの単粒子解析A、外腕ダイニンαβサブパーティクルのネガティブ染色電子顕微鏡像。3個の重鎖を持つ外腕ダイニンは、高塩濃度抽出によりαβサブパーティクルとγに分離する。B、カルシウム存在/非存在下における頭部の分子形状比較。外腕ダイニンγの頭部の分子形状はカルシウムが存在しても目立った形状変化はなく、その形状は他のダイニンとよく似ていた。頭部の像を基に分子像のアライメントを行い、類似の形状を示すグループにクラス分けしクラス内で像平均した。ここでは、ダイニンのテールとストークが頭部の右に位置するものを示す。B、テールの形状を基にクラス分けした平均像。カルシウムが存在するとテールが大きく屈曲するものが現れた。C、テールの屈曲角の測定(参考文献[15]を改変引用)。比較のために内腕ダイニンcの分子像を並べた。22   情報通信研究機構研究報告 Vol.66 No.1 (2020)2 バイオ材料の知に学ぶ

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