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ケーションの第一歩と思われる。我々は最新の研究から、このような染色体間コミュニケーションの一端を担っているのはタンパク質と長鎖非コードRNAの液‐液相分離であることが明らかになった。液‐液相分離は膜を持たない区画化された領域に特定のタンパク質を濃縮することによって生化学的な反応を効率よく進める物理化学現象で、近年、液‐液相分離はほぼすべての生命現象において非常に重要な役割を果たす事実が続々と明らかになり、生命科学研究に目覚ましい進展をもたらした。本稿では、相同染色体の相互認識における液‐液相分離の役割を紹介する。RNAドットの形成に関わる因子これまでに生物情報グループは、分裂酵母を用いて減数分裂時の染色体ダイナミクスを解明してきた。分裂酵母では、核の融合と同時にテロメアがスピンドル極体に集まり、ブーケの形状をとるホーステール核(horsetail nucleus)と呼ばれる細長い核が形成される(図1a)。ホーステール核が現れる時期は、減数分裂期前期に相当し、核が往復運動しながら相同染色体の複製・対合・組換えが行われる。変異体を用いた生細胞観察により、テロメアクラスターの形成と核運動は、相同染色体を空間的に近づかせることに必要であり、安定な染色体対合に寄与することを示した[1]-[4]。続く解析では、第2染色体のsme2遺伝子座が、テロメア付近よりも高い対合頻度を示すことを見出し、そのロバストな対合には、sme2遺伝子座から転写される長鎖非コードRNA(lncRNA)であるsme2 RNAが必要であることを明らかにした[5]。sme2 RNAはsme2遺伝子座に集積することが観察され(図1b)、sme2 RNAが形成する集合体が相同染色体の対合を積極的に促進することが示唆された。sme2 RNAが対合に寄与する分子メカニズムを解析するために、GFPライブラリー[6][7]などのデータベースから、核内ドット様局在を示すタンパク質を検索し、sme2ローカスと共局在を示すタンパク質(smpタンパク質)を複数同定した(図2a)。同定されたタンパク質が全部RNA結合タンパク質で、特に転写終結2図1(a)減数分裂期前期核に、テロメアクラスターの形成と核運動によって相同染色体が同じ方向に揃えられる。(b)GFPで可視化したsme2 RNAドット(矢印)とDNA(マゼンタ)の二重染色。sme2 RNAababc図2(a)Smpたんぱく質が複数の核内ドットを形成する、その中の一つはsme2RNA (Mei2-mCherryで標識、左パネル)と共局在する。(b)Smp2, Smp5, Smp7が対合に必要である。それらのたんぱく質がないと、対合頻度が落ちる。(c)smFISHで可視化したlncRNA(マジェンタ)と相同染色体のローカス(緑)。核DNAが青である。 lncRNAが相同染色体をリンクしている様子が分かる。28   情報通信研究機構研究報告 Vol.66 No.1 (2020)2 バイオ材料の知に学ぶ

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