制御やpoly(A)テール形成に関与する因子が含まれている。遺伝子破壊及び条件的シャットオフを行い、sme2サイトの対合活性に影響を与えるSmpタンパク質を数個同定した(図2b)。これらのタンパク質はsme2ローカス以外にも顕著な染色体結合サイトが複数ある(図2a)。それらのサイトが新規の対合サイトである可能性を探るために、染色体上の位置と原因遺伝子を同定した。分裂酵母の全ゲノムをカバーするようなLacO/lacI-GFPライブラリー[8]を利用して、Smpタンパク質の染色体結合サイトが1番と3番染色体上にそれぞれ1個あることを同定した。さらにSmpタンパク質の染色体結合サイトをChIP-seq法により詳細に解析し、その原因遺伝子はsme2と同様に、減数分裂特異的に転写されるlncRNAであることが明らかになった(図2c)[8]。この結果から、sme2 RNAだけではなく、減数分裂期に転写され、しかも染色体に滞留する多くのlncRNAが相同染色体を引き付ける役割を果たすのではないかと示唆された。液‐液相分離はRNAドットの形成と融合に寄与するそれでは、なぜlncRNAとSmpたんぱく質が対合に必要なのか?対合に必要なlncRNAを生細胞観察やsmFISH(single-molecule fluorescence in situ hybridization)法で観察すると、染色体上に丸い水滴のような形をすることが観察された(図2c)。この観察からlncRNAドットやSmpタンパク質ドットは液‐液相分離の原理で形成されていることが示唆された。液‐液相分離であるかどうか検証するために、液-液相分離を破壊する両親媒アルコールである1.6-hexanediolで細胞を処理することにした。その結果、Smpタンパク質ドットが消え、lncRNAドットが分散し、相同染色体が離れてしまうことが観察された(図3a-c)。1.6-hexanediol処理の作用が可逆的なもので、1.6-hexanediolを培地から除くと、直ちにSmpタンパク質とlncRNAドットが元に戻り、対合も再び確立された(図3a-c)。つまりこれらの結果から、lncRNA-Smp複合体は液‐液相分離を介して集合体を形成し、その集合体形成が相同染色体を互いに引きつける原動力を生み出していることが示唆された。さらに、異なるlncRNAを含む集合体同士は融合せず、対合も促進しないことからlncRNAが対合の特異性を決めていると思われる(図3d)。このように、RNAをノリとしてバーコード状に染色体上に配置し、相同染色体を認識対合させるメカニズムは、まさに進化の過程で獲得した生物の優れた知恵とも言えるだろう。ほ乳類の雌では、2つのX染色体のどちらか一方がランダムに不活性化されるが、その過程でTsixRNAの発現とX染色体上への蓄積に依存的にX染色体どうしが一時的に対合することが知られている[9]。これに同様のメカニズムが働いている可能性がある。さらに、RNAとタンパク質の液‐液相分離を介して無傷な2重鎖DNA間の情報交換は減数分裂期以外の細胞周期にも何らかの積極的な役割を果たすのではないかと推測でき、今後の検証が待たれるところである。まとめ以上の相同染色体対合に関する研究成果から、染色体コミュニケーションの極意はスケールアップしながら、デジタル情報をアナログ情報に変換するところにあるのではないかと考えられる。DNA情報は一つのコピーしかないGATCの塩基配列のデジタル情報で、このDNAの暗号を読み取り、まず、量的には数十倍から数千倍に増幅させたRNA情報に書き換える。そのRNAが液‐液相分離したタンパク質のドロップレットに取り込まれることによって、特異的な物性を持つドロップレットが形成される。このドロップレッ34abcd図3(a-c)1.6-hexanediol処理で変化するSmpたんぱく質の核内ドット(a)、sme2RNAドット(b)、相同染色体対合(c)。(d)lncRNA-Smpドロップレットが相同染色体の認識と対合に寄与するモデル図。テロメアクラスターと核運動によって同じ方向に揃えられた相同染色体はIncRNA-smpドロップレットの融合によって認識、対合する。292-4 相分離で導く染色体間コミュニケーション
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