の人為制御において、非常に有用なツールになると考えられる。これまでに我々は、生体-非生体ハイブリッド素子のモデルとして、望みのDNAやタンパク質等の生体分子を結合させた微小なプラスチックビーズ(人工ビーズ)を作製し、これを生細胞の中に導入して、細胞応答を調べる実験手法の開発を進めてきた。以降では、これまでに得られた成果のうち代表的なものを紹介する。2.1オートファジーによる人工ビーズの捕捉細胞の生存にとって、外界から細胞内へ侵入してくる物質への対処は重要である。例えば、細胞にバクテリア等の病原体が侵入した場合、細胞は何らかの形でそれを検出・認識し、それに応じて適切に対処している。これら一連の過程において、細胞は分子を介した情報伝達を行っているはずであるが、個々の分子は非常に小さいため、通常の場合、それを顕微鏡観察法などによって可視化することは難しい。特に、外来物質がいつ、細胞内のどこに侵入し、また、侵入直後にその場所で何が起こっているかを可視化することは難しく、従来までブラックボックスとなっていた。そこで我々は、生細胞が行う分子通信の理解と制御へ向けた研究の第一歩として、種々の人工ビーズを細胞に取り込ませることで、「細胞はどのようにして外界からの情報を検知しているか」という問題を明らかにしようと考えた。具体的には、生きた培養細胞(HeLa細胞)の中に生体分子を結合させたポリスチレンビーズを導入し、その周囲で起こる細胞応答を生細胞蛍光イメージング法(図1b)及び蛍光観察したのと同じ場所を電子顕微鏡で観察する手法(Live CLEM法[8])で解析した。この方法では、トランスフェクション試薬と呼ばれる脂質を用いることで、エンドサイトーシスによってビーズを細胞に取り込ませる。エンドサイトーシスは細胞が元来備えている物質取り込み機構で生きた細胞生体−非生体ハイブリッド素子導入顕微鏡観察ポリスチレンビーズ(〜3 m)生体分子(DNA等)利点・ビーズの大きさや材質・生体分子の種類や量・ビーズを観察時の目印として使用可能設計自在a顕微鏡本体恒温室遠隔操作用コンピュータb図1 生体−非生体ハイブリッド素子を用いた細胞応答計測技術の概要a. 実験系の概要と利点。 b. 生細胞観察に用いる高解像度蛍光イメージングシステム。観察条件を安定に保つため、顕微鏡は恒温室内に設置。 参考文献[7]を一部改変して転載。やや遅れてオートファジー開始DNAビーズエンドソーム膜オートファジー膜構造核膜様の膜構造BAFDNAエンドソーム内エンドソーム崩壊後~ 1 minエンドソーム崩壊後~ 10 min最終的な運命非貪食細胞Kobayashi, et al. PNAS, vol.112, pp.7027-7032. 2015.Kobayashi, et al. Autophagy, vol.6, pp.36-45, 2010. 細胞への導入(取り込み)コントロールビーズオートファジーによる捕捉(分解)BAFの働きにより外来DNAはオートファジーを回避ビーズが細胞質内に露出(侵入)DNAセンサー分子(BAF)が外来DNAを即座に検出図2 生体−非生体ハイブリッド素子を用いた実験で明らかとなった細胞による外来物質認識機構のまとめ 参考文献[7]より転載。32 情報通信研究機構研究報告 Vol.66 No.1 (2020)2 バイオ材料の知に学ぶ
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