あり、エンドサイトーシスによって取り込まれたビーズは、当初、エンドソームと呼ばれる、細胞質とは膜で隔てられた空間内に存在する。この状態では、ビーズはまだ本当の意味で細胞内(細胞質内)に入ったとは言えないが、エンドソーム内の酸性化が進んだある時、トランスフェクション試薬の効果によってエンドソーム膜が破れ、ビーズが細胞質内へ侵入する。すると、これをきっかけとして、細胞はオートファジー反応を開始しビーズを捕捉することが分かった(図2、コントロールビーズ)[9]。オートファジーは細胞が持つ分解機構の一種であるため、このビーズの表面に結合させた生体分子は分解されることになるが、ビーズ自体は分解されないため、ビーズを観察時の目印とすることで、エンドサイトーシスによる取り込みから最終的に分解の場であるリソソームへと運ばれるまでのビーズの細胞内動態を追跡観察することができる。この成果は、人工ビーズを使って、オートファジーという細胞応答を狙った位置(ビーズ周囲)に限定して誘導できたという点で、非常に画期的であった。2.2外来DNAをオートファジーから回避させる仕組みの発見では、細胞内に侵入した外来物質はすべてオートファジーによって捕捉・分解されるのだろうか。我々の最近の研究から、少なくとも二本鎖DNAは、オートファジーによる分解をある程度回避できることが分かってきている(図2、DNAビーズ)[10]。生細胞への外来DNAの導入は、生細胞蛍光イメージングや遺伝子治療をはじめとする様々な分野に欠かせない技術である。これまでにトランスフェクション試薬を用いた化学的導入法等、様々なDNA導入法が開発されているが、実際に細胞質内に侵入した外来DNAを細胞がいつ、どのように検知し、どのように対処しているかについては、観察対象が小さい等の問題のためよく分かっていなかった。そこで我々は、二本鎖DNAを結合させたビーズを細胞内に取り込ませて、外来DNAの侵入時に起こる細胞応答を解析した。その結果、BAF(barrier-to-autointegration factorの略)と呼ばれるDNA結合タンパク質が、侵入した外来DNAを即座に検出し、その後、約10分の間に、外来DNAの周囲に核膜に類似した膜構造が形成されることが分かった(図3、核膜に類似した膜構造)。一方、オートファジーの膜はビーズを取り囲むことができず、最終的にビーズから離れた位置にのみ観察された(図3、オートファジー)[10]。この過程を明らかにできれば、効率的な(細胞にとって副作用の少ない)外来DNAの導入法の開発につながる。これまでの知見と考え併せると、オートファジーは外来異物そのものというよりは、異物の侵入(エンドソーム膜の崩壊)の方を検知して反応を開始しているように見える(図2上段)。これは、異物の種類によらず対応できるという点で、とても優れたやり方である。一方、DNAセンサー分子であるBAFは、侵入した外来DNAを直接検知し、オートファジー膜よりも先に核膜様の膜構造をビーズ周囲に形成させることにより、ビーズをオートファジーによる分解から回避させていると考えられる(図2下段)。以上のように、細胞が持つ柔軟な外来物質認識機構の理解が進み、それに学んで、望みの物質を生細胞に導入し、安定に機能させる技術を開発できれば、細胞が行う分子通信の人為制御に大きく貢献するものと期待できる。なお、ここで紹介したDNAビーズを使った細胞応答解析法は、細胞へのビーズ導入条件を最適化することで、HeLa細胞だけでなく、マウス繊維芽DNAオートファジーDNAセンサー(BAF)重ね合わせ核膜に類似した膜構造蛍光像電子顕微鏡像オートファジービーズ模式図5 m1 m図3 細胞内に導入してから1時間後のDNA結合ビーズの様子蛍光像で見えているのと同じビーズを電子顕微鏡で観察した。核膜に類似した膜構造がビーズ周囲に形成されており(模式図、赤色)、オートファジー(緑色)を回避している様子が分かる。参考文献[7]より転載。332-5 生体–非生体ハイブリッド素子を用いた細胞活動の理解と人為制御
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