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細胞やマウス受精卵等の他の細胞種に対しても適用可能である[11] [12]。2.3生細胞内における特定タンパク質の機能解析前項までの研究成果から、細胞に人工ビーズを導入する際、ビーズ表面に結合させる生体因子をうまく選べば、人工ビーズを分解から回避させ細胞内に安定に保持させられることが分かった。そこで次に我々は、人工ビーズを用いた実験法をより汎用性の高いものとするため、特定のタンパク質を結合させたビーズを使って、オートファジーを回避しつつ、そのタンパク質の細胞内での機能を解析する手法の開発に挑んだ。これが実現すれば、例えば、BAFタンパク質のみでもオートファジー回避を引き起こせるのかどうかや、BAF以外のタンパク質でも同様の効果が得られるか等の問いに対する答えを得ることができると考えたからである。一般的に、タンパク質結合ビーズを作製するためには、大腸菌を用いたタンパク質大量発現系等を利用して目的タンパク質を大量に調製し、それをビーズ表面に結合させる必要がある。しかし、タンパク質の大量発現や精製には、個々のタンパク質の物理化学的性質に合わせた実験条件の最適化が必要であるため、大変な労力を要する。また、タンパク質はDNA等に比べて環境変化に弱いため、仮にタンパク質結合ビーズを上手く作製できたとしても、細胞に導入する過程でビーズ表面に結合させたタンパク質が失活してしまうという問題点が考えられる。そこで我々は、生細胞内環境において特定タンパク質の機能解析を実現する新たな手法として、抗体結合ビーズを用いた実験法(抗体ビーズ法)の開発を行った[10]。この方法の最大の特徴は、事前に目的分子を結合させたビーズを作製するのではなく、抗原-抗体反応を利用して生細胞内環境で特定分子結合ビーズを作製することで、上記の問題点を回避するという点である(図4a)。これは、抗体はpH変化等に対して比較的安定な物質であるため、エンドサイトーシス経由で細胞質内に導入した場合に起こるエンドソーム内の酸性化が起こった場合でも、抗体が失活せずに抗原への結合能力が保持されると考えたからである。実際に、トランスフェクション試薬を用いてGFP-BAFを発現するHeLa細胞へ抗GFP抗体結合ビーズを取り込ませたところ、細胞質にあるビーズの表面にGFP-BAF由来の蛍光シグナルの顕著な集積が認められた(図4b)。これは、細胞質内に導入したビーズの表面にある抗GFP抗体が細胞質に存在するGFP-BAFと結合し、GFP-BAF結合ビーズが形成されたことを意味する。次に、GFP-BAF陽性となってから1時間後に細胞を固定し、CLEM観察を行ったところ、ビーズ周囲には核膜様の膜構造が形成されており、ビーズがオートファジーを回避していることがわかった(図4c、上段)。一方、コントロール実験としてGFP発現株に抗体ビーズを導入した場合には、ビーズ周囲にオートファジーに典型的な膜構造が観察された(図4c、下段)。これらの結果から、BAFがビーズ表面に集積したビーズは、オートファジーを回避できることが分かった。BAFは元々、ウイルスが細胞に感染した際に、ウイルスゲノムが宿主のゲノムに組み込まれるのを助ける細胞内因子として同定されたタンパク質であるが[13]、そのBAFを表面に結合させるだけで人工ビーズをオートファジーによる分解から回避させられるという点は、正に、細胞が行う分子通信の仕組みに学んだ生体−非生体ハイブリッド素子の利活用技術の一例だと言える。以上のように、抗体ビーズ法では、生細胞内において目的タンパク質を特異的にビーズ表面に集積させ、図4生体−非生体ハイブリッド素子を用いた生細胞内における特定タンパク質の機能解析   a. 抗体ビーズを用いた実験系の概要。エンドソーム崩壊後、細胞質に露出したビーズの表面に、細胞内のGFP融合タンパク質が集積する。b. ビーズ表面へのGFP-BAFの集積のタイムラプス観察像。矢印はビーズの位置を示す。ビーズの右側に見えているのは細胞核。 c. ビーズ周囲に形成された膜構造の蛍光−電子相関観察法による観察結果。BAFを集積させたビーズの周囲には核膜様の膜構造が形成されており、オートファジーを回避している様子が分かる。エンドソーム崩壊エンドソーム崩壊bcビーズGFP-BAFGFP (control)ビーズ蛍光像電子顕微鏡像全体像拡大図模式図ビーズ表面に集積させた分子核膜様の膜オートファジー1 m100 nmGFP-BAF1230 min抗GFP抗体ポリスチレンビーズ抗体ビーズGFP-BAF結合ビーズGFP結合ビーズGFP-BAF発現細胞GFP発現細胞(control)a導入導入34   情報通信研究機構研究報告 Vol.66 No.1 (2020)2 バイオ材料の知に学ぶ

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