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溶液“ラベル”評価の可能性(溶液サンプルの“ラベル”推定への利用)化学物質溶液を評価・識別することは、現代社会において重要な事項である。河川水からの環境評価、尿や唾液からの健康状態評価、など様々な事例が考えられる。化学物質識別器としての利用だけでなく、生物を用いたデバイスを利用して、溶液評価(溶液サンプルの“ラベル”推定)できないか?現在、その可能性を検討中である。飲料であれば、“メーカー”、“味”、“効果”といったラベルを、また、尿や唾液であれば“疾患(予測)”、“健康状態”といったラベルを、溶液識別の手法を応用してできないか?という取組である。前節までの、化学物質識別デバイスとしての利用は、“アミノ酸種(名)”というラベルを識別した例と言え、ここではそのラベルを識別目的に応じて変更することが狙いである。簡易試験として、メーカーの異なる飲料(市販の麦茶)を2種用意し、データベースを構築し、ブラインドサンプルからメーカー名を当てるテストを行った。プレリミナリではあるが、ほぼ確率1.0でブラインドサンプルのメーカー名を当てることが可能であった(組合せに依存するので、全てのメーカーを識別できるわけではない)。我々の微生物を利用したデバイスが、化学物質名という“ラベル”を識別するだけでなく、溶液の任意の“ラベル”を推定(評価)できる可能性を示す結果と言える。おわりに生き物を検出デバイスとして利用することにより、生物活性をフィルターとして化学物質の識別が可能であることを示した。ここで紹介した話題は、生き物の行動変化を“情報”とし、化学物質の識別や、ヒトへの影響予測の可能性を示した。我々の得意分野が生き物の動きの定量測定であったため、挙動を可視化情報としたまでである。この手法の可能性は、生き物の行動変化だけに縛られるものではなく、例えば、細胞の形状や密度、増殖速度と言った変化も“可視化情報”となり得る。必要なのは、検出用生物デバイスの応答変化を、ヒトの価値観へと変換するラベル付けである。生物活性フィルターを通した化学物質検出の将来像としては、味、毒性、熟成、腐敗など我々生き物が違いを感じる(検出する)化学物質(による効果)等の検出が期待される。我々の手法では、化学物質の元素組成や構造などの情報ではなく、化学物質の“生き物にとっての意味”という情報を処理していると言える。化学物質の“意味”の理解により、生き物から化学物質情報処理の手法を学ぶ。情報処理のバイオミメティクスという分野を切り拓く一助に貢献できればと期待している。謝辞本研究にあたり、統計処理に関して有益なご討論ご56図3 バクテリア大腸菌を使った化学物質情報のデータベース構築と“利き化学物質”識別対象となる標準(ラベル付けされた)サンプルを大腸菌に与え、10 分間の応答出力を数値化したものが一つのデータとなる。化学物質種・濃度を変えた様々なサンプルの応答出力を集め、データベースを構築する。入力化学物質と応答出力の関係データベースを参照し、統計処理を使って、応答出力から入力化学物質を推定する関数を作成する。“利き化学物質”(化学物質の識別)では、化学物質種・濃度を隠した標準サンプルの一つを含む溶液(ブラインドサンプル)を準備し、その応答出力を取得する。応答出力から関数を使って、化学物質種を当てる(推定する)。40   情報通信研究機構研究報告 Vol.66 No.1 (2020)2 バイオ材料の知に学ぶ

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