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まえがき現在大流行のディープラーニングなどを使った“人工知能”が、脳が生み出す本来の“知能”と同じ様式で働くかのように誤解されているのを頻繁に目にするが、人間をはじめとする動物の脳内で“知能”がどのようにして働いているのかについて、人類はまだほとんど何も知らない。コンピュータの“メモリー”(最初にアクセントがないカタカナ語)が縦横無尽に利用されているにもかかわらず、本家本元である脳内の“記憶=memory”の仕組み について、人類はまだ理解していないからである。この“記憶”こそが知能の根幹であり、記憶がどのようにして作られ保存されるかを知ることが、知能の本質について理解することである。しかし、脳の素子である神経細胞=ニューロンが記憶をどのようにして作り出すかを知る方法がなかったので、記憶の仕組みについて理解することは今までずっと不可能であった。世界の誰もアプローチできなかった謎に挑戦するには、全く新しい独自の方法を創出する必要があった。本稿では、著者らの本来の専門分野である基礎的なシナプス伝達の電気生理学に基づいて独自に提唱した記憶の一般仮説、当記憶プロジェクトのアメリカでの前身において著者たちが長年かけて築き上げてきた記憶研究の方法論と未来ICT研究所での発展、さらに、NICTの技術と相まってこそ芽を出した“自然記憶人工知能(Naturally Artificial Intelligence=NAI)”の構想について、その広がる可能性について紹介する。“記憶の局所フィードバック仮説”2.1ショウジョウバエの卵のシナプスでの電気生理学実験“記憶はシナプス(神経細胞と神経細胞がつながるところ)に蓄えられる”と、数限りない状況証拠を踏まえ、著者も含めた多くの神経科学者たちが考えている。その決定的証拠はまだないが(私たちが、その証拠を得つつあるが)、複雑な記憶を保持するために、それ以外の可能性はまず考えにくいからである。記憶を作るシナプスの変化を調べるために、ショウジョウバエの卵の中の運動ニューロンと筋肉細胞がつながる“神経筋接合部”でのシナプス伝達のしくみを著者らは長年研究してきた。ショウジョウバエの卵(図1a-c)は0.5ミクロンと非常に小さいため扱いが難しく、この電気生理学実験を12ショウジョウバエの“食べるコマンドニューロン”上に形成される記憶を解析することによって細胞の変化を記憶に結び付け、そこで、独自に考案した記憶の一般仮説である“ローカルフィードバック仮説”を検証することによって記憶の基本原理を解明する。この解析は単一細胞レベルでの記憶に伴う変化について知ることを初めて可能にする。これを利用し、これを模したデバイスを作ることによって“自然記憶人工知能(Naturally Artificial Intelligence=NAI)”をデザインする。We are trying to connect behavioral memory to synaptic change on a feeding command neuron, in the Drosophila brain. There we are testing the “local feedback model” we devised to reach the principle of memory. Our study gives us the first information on cellular change during memory for-mation. Thus, we can mimic the change in order to design devices to form “Naturally Artificial Intelligence=NAI,” which functions in the same way as that in memory formation of our brain.3 バイオシステムの知に学ぶ3Learn from Intelligence in Nature of Life3-1 脳の知を生み出す生物現象の知に学ぶ3-1Intelligence in Nature, Generating Intelligence in the Brain吉原基二郎 櫻井 晃YOSHIHARA Motojiro and SAKURAI Akira433 バイオシステムの知に学ぶ

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