によって記憶が形成されたら、それがコマンドされるマクロの行動の変化として現れるはずで、それによってミクロとマクロを対応づけることができる。そこで、まずはコマンドニューロンを見つける方法を開発するところから始め、膨大な数のショウジョウバエ系統のスクリーニング[12]を経て、記憶研究に最適な(次項参照)食べる行動を指令する“フィーディング・ニューロン”を発見し、Nature誌に報告した[13]。3.2脳内を観察しながら“食べる”行動実験が可能な実験系“フィーディング・ニューロン” 上のミクロの営みを観察しながら同時にマクロの食べる行動を観察できる実験システムを独自に開発した(図5)[14]。ちょうど、ペンフィールドが患者の脳を見て刺激しながら対話していた実験のハエ版である。この技術開発により、実際に脳内をみながら同時に餌をあげ、摂食行動を観察することができる。実際、ショ糖溶液をハエの口に与えると“フィーディング・ニューロン”が活動し、それとともに、誘起された口をのばす摂食行動が同時に観察された[13]。この実験系によって、ミクロの細胞現象をマクロの行動にリアルタイムで対応させる準備が整った。3.3パブロフのハエフィーディング・ニューロン上に記憶をつくるため、記憶のモデルとしてよく知られるパブロフの条件反射と同様の実験を行うことを考えた。パブロフは、ベルを鳴らしてはイヌにエサを与えることを繰り返し、ベルの音だけで犬が唾液を分泌することを発見した。イヌの脳の中では、この“条件付け”によって、ベルの音がフィーディング・ニューロンに相当する神経回路を活動させるように変化したのだろうと予測される。パブロフの実験と同様な実験をハエで行えば、フィーディング・ニューロン上に作られた“単一細胞レベルの”記憶を追跡することが期待される(図6)[15]。そこで、筆者らは、パブロフの実験に倣ったハエの条件反射の実験法を開発し、条件付けによってフィーディング・ニューロンの反応性が変化すること、すなわち神経回路に新しいつながりができることを既に確認している(発表準備中)。図6 パブロフの条件反射図7 ショウジョウバエの脳内のフィーディング・ニューロン(Nature, 2013)上で記憶のできる様子をリアルタイムで目撃する。473-1 脳の知を生み出す生物現象の知に学ぶ
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