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いた。数としては、3%足らずにすぎないRP遺伝子のmRNA合計が、全mRNAの半分近くを占めていたことになる。リボソーム合成とrフラクション前述したタンパク質合成と音楽演奏のアナロジーにおいて、両者には、もう一つ、大きな違いがある。音楽演奏の場合、演奏者と最終産物である音楽との間に物理的な関係は何もないが、タンパク質合成の場合、演奏者に相当するリボソームは、それ自体が多数(約80個)のタンパク質から成っている。すなわち、演奏者であるリボソームは、それ自体が最終産物であるタンパク質(の集合体)でもあるのだ。したがって、タンパク質を合成する装置としてのリボソームは、それが多ければ、それだけ、細胞が必要なタンパク質を速やかに合成することを可能にするが、その一方で、タンパク質の集合体であるリボソームそのものの合成のために、多くのリボソームが費やされることになる。置かれた環境において、細胞が至適な増殖を維持するには、「リボソームを作るために使われるリボソームの割合」を適切に制御する必要があると考えられる。DNAから転写されたmRNAが、リボソームと出会って一連の翻訳反応を経て一つのタンパク質が産生される。一般に、リボソームがmRNAと出会うとそのmRNAからタンパク質を合成し、合成が終わるとリボソームは、mRNAと別れて、別のmRNAとの出会いを待つ。全mRNAの46% がRP遺伝子のmRNAだったことから、リボソームが無作為にmRNAと出会うとすれば、46%の割合でRPのmRNAと出会い、RPの翻訳反応に参加することになる(図2aの上側の反応)。すなわち、mRNAの翻訳されやすさを一定とすれば、rフラクション(リボソームを作るために使われるリボソームの割合)は、全mRNA数に対するRP遺伝子のmRNA数の割合によって与えられる(図2。以下、この値をrで表す)。図1に示した例の場合、r=0.46ということになる。前述したように、細胞が置かれた環境において、その至適な増殖を維持するには、「リボソームを作るために使われるリボソームの割合」を適切に制御する必要があると考えられるが、実際に生きた増殖細胞において、rは変動しているのだろうか。低栄養環境適応におけるリソース配分分裂酵母は、NH3を唯一の窒素源として生育することが可能である。筆者らは、培地中のNH3濃度が通常より100倍薄い環境(1/100×N)で培養を行い、様々な計測値を通常窒素濃度における培養時(1×N)と比較した。図3に示すように、1×Nと1/100×Nとの比較において、細胞の生存率に、ほとんど変化はなく、倍化時間(細胞が1回分裂するのに要する時間で、これが短いほど、増殖が速いことを意味する)が約5%延伸し、細胞体積が約12%、細胞当たりの総タンパク質量が、約30%減少していた。この時、mRNAの56図1 分裂酵母mRNA数の分布a: mRNA数ランキング。縦軸は、各遺伝子のmRNA数の相対値。横軸は、mRNA数の大きいものからの順位。b: mRNA数分布のヒストグラム。横軸は、各遺伝子のmRNA数相対値の自然対数の階級。縦軸は、各階級の頻度。図2 リボソームのために使われるリボソーム 593-3 遺伝子制御メカニズムからのICT探究

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