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形できる可変形鏡を用いて、ゆがんだ波面を打ち消すことにより、光の波面を修整する(図2B)。このように波面を補正した光をカメラに結像させると、大気の屈折率ゆがみが補正され、地表からでも宇宙空間と同等の高分解能で天体を観察できる。我々はこの手法を生物学の顕微鏡に応用し、生体深部における分解能の復元を行っている。2.3 色収差補正技術蛍光顕微鏡では、異なる標的分子を異なる蛍光色(青、緑、赤など)で染め分けることによって、複数の標的分子を同時に観察できる。しかし、光の屈折率は光の波長により異なるため、顕微鏡画像には僅かな色ズレが生じる。超解像顕微鏡により向上した分解能では、僅かな色ズレでも結果の解釈が困難になってしまう。特に生体の屈折率変化は予測できないため、生体観察における色ズレを正確に補正することは、従来は非常に困難であった。この問題を解決するため、我々は、高精度の色収差補正にも取り組んできた。生体における色ズレ量を計測する画像取得法と計算方法を世界で初めて開発し、3次元の試料で約15 nmという極めて高い補正精度を実現した[13][14]。この精度であれば多色の超解像顕微鏡画像の結果を正しく判定できる。この画像取得法と画像処理ソフトウェアを世界中の超解像顕微鏡ユーザーに公開して、科学研究におけるデータの正しい解釈に貢献している[15](図3)。この高精度の色収差補正技術は、二点間距離の計測における飛躍的な精度向上にも応用できる。二点が分解能より近接した場合、同じ色であれば二点は混じってしまい一点にしか見えないが、二点がそれぞれ異なる色であればカラー画像から二点を見分けることがで図2 生体試料の屈折率の問題点と解決法(A) 生体試料自身の持つ複雑な屈折率のために光が折れ曲がり、深部(裏側)はほとんど見えない。(B) 補償光学顕微鏡の模式図。試料からの光の波面を波面センサーで計測し、可変形鏡により波面を補正すれば、高分解能の画像を取得できる。カメラ波面センサ可変形鏡試料試料像波面補正AB図3 公開しているソフトウェアのスクリーンショット633-4 生物の知を光と計算で読み解く — 分解能の限界を超える顕微鏡技術

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