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Si/EOポリマーハイブリッド小型高性能光変調器光インターコネクトでは数センチメートルサイズのトランシーバーモジュールに、信号処理電子回路、レーザー、フォトダイオー等と共に光変調器を集積する必要があることから、高速であるとともにミリメートルサイズの小型化が必要である。Siは屈折率が高く微細加工プロセスが確立していることから小型化が容易であり、光インターコネクト用の光変調器として実用化されている。しかし、高速化は50 Gbaud程度で限界に達しており、高速変調のためにはイコライザーアンプが必要であることから消費電力も大きい。一方で、EOポリマー光変調器は、超高速光変調が可能ではあるものの屈折率が低いため小型化が困難である。Siスロット導波路の幅100 nmほどの隙間に、EOポリマーを充填したSi/EOポリマーハイブリッ光変調器(図5)は、100 Gbaudを超える高速変調が可能であるとともに、光変調器の性能指数であるVL (半波長電圧×電極長)が小さく、低電圧駆動と小型化が可能である。光インターコネクトにおいては、Si光変調器のキャリア吸収による損失が小さく低駆動電圧に有利なOバンが主流となっている。我々は、2.2に記載の新規開発したOバン用高性能EOポリマーを用いてSiハイブリッ光変調器を試作した。表1に、このEOポリマーを用いて試作したSiスロットハイブリッマッハツェンダ光変調器の変調性能指数と他の光変調器との比較を示す。変調周波数が1 kHzのとき、VL は単一アーム駆動で0.73 Vcmであった[6]。比較対象の他の変調器の値はプッシュプル駆動の値を2倍して単一アーム駆動に換算した値である。今回の試作では、スロット幅やEO色素濃度、ポーリング電圧などがまだ最適化ができていないものの、従来のEOポリマーやSi単独の変調器に比べて低いVL を示した。VL の設計上の見込値は0.07 Vcmであり、今後、構造等の最適化による更なる改善を見込んでいる。展望EOポリマーの材料開発は、これまで光ファイバ通信の高速化を目的に、まず光通信波長帯のCバンをターゲットに開発が進められ、本稿で紹介したように光インターコネクトの必要性からOバンで高効率な材料開発へと展開してきた。今後、データ通信量の増大は更に加速すると予測され、通信波長帯を更に短波長の1 µm帯へ拡大することが検討されている。また、空間光通信やLiDARの応用では、安価なシステムとしてSiディテクタが使用できる800 nm〜1,000 nmの波長帯での運用が検討されている。NICTでは、この状況に鑑み、短波長で使用できる高性能なEOポリマーの開発を進め、可視光の640 nmまで使用可能な高性能EOポリマーの開発にめどを立てており、光通信だけでなくプロジェクターや3次元ディスプレイ、スマートグラスなど幅広い応用展開が期待できる。謝辞光フェーズアレイの研究は、NHK放送技術研究所と共同で行った。Si/EOポリマーハイブリッ小型光変調器の研究の一部は、科学技術振興機構事業研究成果最適展開プログラム(A-STEP)シーズ育成タイプの支援を受けて行った。【参考文献【1T. Yamada, I. Aoki, H. Miki, C. Yamada, and A. Otomo, “Effect of me-thoxy or benzyloxy groups bound to an amino-benzene donor unit for various nonlinear optical chromophores as studied by hyper-Rayleigh scattering,” Mater. Chem. Phys., vol.139, pp.699–705, 2013.2T. Yamada, H. Miki, I. Aoki, and A. Otomo, “Effect of two methoxy groups bound to an amino-benzene donor unit for thienyl-di-vinylene bridged EO chromophores,” Opt. Mater., vol.35, pp.2194–2200, 2015.3大友明, 青木勲, 山田千由美, 山田俊樹, “クロスリンクEOポリマーの光学特性と高温安定性,” 第77回応用物理学会秋季学術講演会, 15p-C42-5, Sept. 2016.4平野芳邦, 宮本裕司, 本山 靖, 町田賢司, 田中 克, 山田俊樹, 大友 明, 菊池 宏, “電気光学ポリマーを用いた 4 µmピッチ光フェーズドアレイによる偏向動作,” 映像情報メディア学会誌, vol.73, no.2, pp.392–396, 2019.5Y. Hirano, Y. Miyamoto, M. Miura, Y. Motoyama, K. Machida, T. Yamada, A. Otomo, and H. Kikuchi, “High-Speed Optical-Beam Scanning by an Optical Phased Array Ising Electro-Optics Polymer Waveguides,” IEEE Photonics Journal, vol.12, no.2, pp.1–7, art no.66807, 2020.6大友明, 青木勲, 山田千由美, 横濱秀雄, 山田俊樹, 田澤英久, 村上泰典, “Oバンド用有機EOポリマー/Siハイブリッド光変調器の開発,” 第80回応用物理学会秋季学術講演会, 21p-E204-2, Sept. 2019.7Y. Shi, C. Zhang, H. Zhang, J. H. Bechtel, L. R. Dalton, B. H. Robinson, and W. H. Steier, “Low (Sub-1-Volt) Halfwave Voltage Polymeric Electro-optic Modulators Achieved by Controlling Chromophore Shape,” Science, vol.288, pp.119–122, 2000.45表1 光変調性能指数の比較EOポリマーSi/EOポリマーハイブリッSiVL [Vcm]2.2*[7]0.730.92*[8]*単一アーム駆動に換算図5 Si/EOポリマーハイブリッド変調器のa)模式図、b)SEM像6   情報通信研究機構研究報告 Vol.66 No.2 (2020)2 光制御・ナノICT基盤技術  —基盤から応用まで—

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