位相整合条件の達成のために様々な工夫が必要となるが、EOポリマーは光領域からテラヘルツ領域の広範囲にわたって屈折率の差が小さく[5]、位相整合条件の達成が容易であることも大きな特徴である。加えて、EOポリマーは、結晶性の非線形光学材料と比較して成膜性に優れるとともに、微細加工プロセスを用いた加工が容易であることから、量産化に向けたデバイス開発の面でも利点を有する。このようにEOポリマーを用いることで高性能なテラヘルツ波発生・検出デバイスの実現が期待されるものの、テラヘルツデバイスを実際に作製するうえで、EO分子を配向させるポーリングと呼ばれるプロセスが必要であることがデバイスの作製を困難にしていた。そこで、我々はEOポリマーを用いたテラヘルツデバイスを実現するためのプロセス技術の開発を行うとともに、この技術を用いることで、テラヘルツ波発生デバイスの開発、テラヘルツ波検出デバイスの開発を進めた。本稿では、これらの内容について解説する。EOポリマーを転写するプロセス技術の開発EOポリマーが2次非線形光学効果を発揮するためには、EOポリマー中に含まれるEO分子を配向させるポーリングと呼ばれるプロセスが不可欠である。そのため、従来のEOポリマーを用いたデバイス作製プロセスでは、EOポリマー層と導電性のクラッ及びポーリング電極が配置されたデバイス構造を作製し、電極間に電圧を印加することでEOポリマーのポーリングが行われていた[6][7]。特に、EOポリマー部分に効率的に電圧を印加するため、EOポリマーよりも導電率が大きい、導電性のクラッが必要であった。しかし、この導電性のクラッがテラヘルツ波を非常によく吸収するという性質を持つため、この方法ではテラヘルツデバイスを作製することが困難であった。そこで、我々は、あらかじめポーリングを行ったEOポリマー膜を材料基板上へ転写するという独自のプロセス技術の開発を行い、EOポリマーを用いたテラヘルツデバイスの作製を可能にした[8]。図1に転写法によるデバイス作製プロセスの概要を示している。まず、電極基板上にEOポリマー溶液を塗布し、熱アニール処理後、上部電極の形成を行った。その後、EOポリマーをガラス転移温度付近まで加熱した状態で電極間に電圧を印加することでポーリングを行った。さらに、上部電極を除去し、酸素プラズマ処理により表面を活性化後、シクロオレフィンポリマー(COP)基板上へEOポリマー膜を転写した。COPは、テラヘルツ波の吸収損失が非常に小さい材料であるとともに[8]、導電率が非常に低いため、従来技術を用いたデバイス作製ではクラッ材料として用いることができなかったが、本開発技術を用いることでデバイスの作製が可能となった。EOポリマースラブ導波路型テラヘルツ波発生デバイステラヘルツ波を利用した代表的な分光分析の手法として、時間遅延を与えたフェムト秒レーザーを用いてテラヘルツ波の時間波形を取得するテラヘルツ時間領域分光法(THz-TDS法)が挙られる。特に、波長23図1 転写法によるEOポリマーデバイスの作製プロセス10 情報通信研究機構研究報告 Vol.66 No.2 (2020)2 光制御・ナノICT基盤技術 —基盤から応用まで—
元のページ ../index.html#14