HTML5 Webook
15/108

1.55μm帯の小型エルビウムープファイバーレーザーを光源とすることで、小型のテラヘルツ分光システムを実現できる。これまで、波長1.55 μm帯のポンプ光を用いたテラヘルツ波の発生では、光伝導アンテナ若しくはDASTなどの有機非線形光学結晶が主に用いられてきた。しかし、前者は、発生帯域が4 THz程度以下に限られ、また後者は、広帯域での発生が可能であるが結晶格子振動に由来する吸収ピークにより1.1THz付近などで効率が低下するという課題があった。一方、これまでのEOポリマーを用いたテラヘルツ波発生の報告では、テラヘルツ波発生素子としてEOポリマー膜が用いられ、レーザー光源として大型の高強度フェムト秒チタンサファイアレーザーが用いられていた[9][10]。その理由として、EOポリマーの膜を用いた場合、ポンプ光とEOポリマーの相互作用距離を大きくすることができず、テラヘルツ波の発生効率を高めるためにポンプ光強度を大きくする必要があったためと考えらえる。我々は、波長1.55 μm帯の小型、低出力のフェムト秒ファイバーレーザーで使用できるテラヘルツ波発生デバイスの開発を目指し、ポンプ光とEOポリマーの相互作用距離を大きくすることができる導波路型のEOポリマーデバイスの作製を行った[8]。図2に作製したスラブ導波路型のEOポリマーデバイスの模式図とデバイスの外観、デバイス断面の走査電子顕微鏡画像、使用したEOポリマーの構造を示している。図1の転写法を用いることでテラヘルツ波の吸収損失が小さいCOP基板を用いたデバイスを作製した。透過型エリプソメトリー法[11]により測定した波長1.55 μmでのEOポリマーの電気光学係数は46 pm/Vであった。COPは密着性が低い材料として知られるが、ダイシング後もEOポリマーとCOPの間で剥はく離りは見られなかった。図3にTHz-TDS法により取得したEOポリマースラブ導波路デバイスから発生したテラヘルツ波の時間波形とフーリエ変換することで得られたスペクトルを示している。デバイスへのポンプ光の導入にはシリンリカルレンズを用いるとともに、周期分極反転ニオブ酸リチウムを用いて2倍波に波長変換したプローブ光と厚さ1 mmのZnTe結晶を用いたEOサンプリング法によりテラヘルツ波を検出した。本結果では、DASTなどの有機非線形光学結晶を用いてテラヘルツ波発生を行った場合に見られる結晶格子振動に由来するスペクトルギャップは見られず、スペクトルギャップフリーのテラヘルツ波発生が可能であることが示された。一方、スペクトル帯域が3 THz程度以下に制限されたのは、検出系において、3 THz以上のテラヘルツ領域で吸収を有するZnTeを用いたことが原因として考えられ、広帯域の発生方法だけではなく検出方法についても開発を進めることが重要と言える。金パッチアンテナとEOポリマー導波路を用いたテラヘルツ波検出デバイスBeyond 5G無線通信において、テラヘルツ波の信号波形を、光ファイバーを用いて伝送する光ファイバー無線の技術が重要になると予想される。その実現のため、テラヘルツ信号を光信号へ変換するデバイスの開発が求められている。EOポリマーは、数百GHz以上の超高速動作が可能であることから、EOポリマーを用いることで電気的な回路を介することなくテラヘルツ信号を光信号へ直接変換するデバイスを実現できると期待される。本研究では、金パッチアンテナとEOポリマー導波路を用いたWバン帯(75~110 GHz)電磁波検出デバイスの実現を目指して研究開発を行った。EOポリマーは、大きな電気光学係数を有することに加えて、結晶性の非線形光学材料として比較して誘電率が小さいことから電磁波を受信するアンテナサイズを大きくすることができ [12]、高効率なテラヘル4図2EOポリマースラブ導波路型テラヘルツ波発生デバイスの(a)模式図、(b)外観、(c)断面走査電子顕微鏡画像、(d)デバイスに使用したEOポリマーの構造図3EOポリマースラブ導波路デバイスから発生したテラヘルツ波の(a)時間波形、(b)フーリエ変換することで得られたスペクトル112-1-2 有機EOポリマーを用いたテラヘルツ波発生・検出デバイスの研究開発

元のページ  ../index.html#15

このブックを見る