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光学ポリマーの吸収スペクトルがシュタルク効果によってシフトする。ここでプローブ光を入射すれば電場Eによって吸収の変化が生じ、透過光強度が変化する。電場Eをテラヘルツ波の電場と考えれば透過光強度の変化からテラヘルツ波の電場(ETHz)を計測することができる。非線形光学ポリマーの電場に対する応答は、基本的に束縛電子による応答であり、テラヘルツ周波数帯の電場であっても瞬時に応答することができる。また吸収は瞬間的な電子遷移である。非線形光学的にはシュタルク効果もEO効果も同じ次数の非線形光学効果である(前者が屈折率nの変化であるのに対し、後者は消衰係数kの変化に対応する)。共鳴効果がある分、後者の方が有利であると考えられる。2次の非線形光学色素などの分子系の場合の1次のシュタルク効果はΔμ・E (Δμ=μnn-μgg)(1)で表される。ここでμnnは分子の励起状態の双極子モーメント、μggは分子の基底状態の双極子モーメントである。よい2次の非線形光学色素は一般にΔμが大きく、シュタルク効果も大きいと考えられる。これは2準位モデルにおける非線形光学色素の長波長の極限での超分極率がβ, として与えられるということからも理解できる。図1中の非線形光学ポリマーの非線形光学色素の超分極率 β, は314×10–30(esu)であった[2][3]。非線形光学ポリマーは他の材料系に比べて広いテラヘルツ周波数帯域で透明であり、非常に薄い薄膜(1 µm程度)を通過する瞬間的なテラヘルツ波電場により変調された透過光強度変化を測定するため、テラヘルツ電場の高精度実時間計測及び広帯域検出が期待できる。非線形光学ポリマーの膜厚は1 µm程度であり、ポーリング処理を施した試料の電気光学係数は57 pm/V(@1.31 µm)であった。また以下で述べるとおり、波長800 nmのプローブ光は、非線形光学ポリマーの吸収ピークの低エネルギー側(長波長側)で吸収を受ける。ポーリング処理を施した試料を1 mm厚のシクロオレフィンポリマー基板の上に転写したものを試料基板とした[4]。シクロオレフィンポリマー基板は広いテラヘルツ周波数領域にわたって透明である。本研究では1µmの非線形光学ポリマーを用いたシュタルク効果による新規なテラヘルツ波検出手法と従来方法である100μmのテルル化亜鉛(ZnTe)を用いた電気光学(EO)サンプリング法[5]との比較を行った。テラヘルツパルスの発生と検出の組合せによるテラヘルツ時間領域分光法(THz-TDS)を用いて新規検出方法の検証を行った。THz-TDSは非接触・非侵襲でのセンシング、物質の分析評価の手法としても注目されている。THz-TDSではフェムト秒レーザーを光源として用いる。フェムト秒レーザーの波長、繰り返し周波数、パルス幅はそれぞれ800 nm, 1 kHz, 110 fsであった。その極一部をプローブ光としても用いている。また、フェムト秒レーザーと光パラメトリック増幅器システムにより、波長1.5 μm、パワー10 mW程度のフェムト秒レーザーパルスを得て、DASTという有機結晶に入射し、テラヘルツ波を発生させた。図2(a)はシュタルク効果によるテラヘルツ波検出の概要図を示している。プローブ光を2つに分け一方をそのままバランス検出器に入射する。もう一方のプローブ光はテラヘルツ波と共に非線形光学ポリマーに入射する。テラヘルツ波とプローブ光は共に、試料に対する入射角度は60°でありP偏光で入射された。テラヘルツ電場によるシュタルクシフトによって吸収の変化が起こるためプローブ光の透過率が変化する[1]。プローブ光の遅延を変化させながら、図2(a)の計測系を用いてテラヘルツ電場波形を検出することができる。この検出方法及び検出装置の優位性として1/4波長板やウォラストンプリズムなどの偏光素子を有さない簡易な計測系となっていることが挙られる。図2(b)は、EOサンプリング法によるテラヘルツ波検出の概図1シュタルク効果によるテラヘルツ波の電場検出の原理と非線形光学ポリマーの化学構造図2(a)非線形光学ポリマーのシュタルク効果によるテラヘルツ波検出系(b)ZnTeを用いた電気光学(EO)サンプリングの検出系16   情報通信研究機構研究報告 Vol.66 No.2 (2020)2 光制御・ナノICT基盤技術  —基盤から応用まで—

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