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た極微小検出部を配置する、いわゆる電磁波の波動性に基づいた設計思想を中赤外光検出器に適用している。極微小検出部の採用により、寄生容量・インダクタンスの低減による応答性能の向上と、検出部体積の減少による高感度化が期待できる。既に、室温下における同領域金薄膜の複素表面インピーダンスを評価し、電磁界シミュレータに導入することで、中赤外光領域でのアンテナ・分布定数回路の設計が可能であることを報告した[4][5]。我々は、極低温下における金薄膜の複素表面インピーダンスの評価を試み、その結果を基にMIR-HEBMを設計、試作した。本稿では、試作したMIR-HEBMのIF帯域幅、61.3 THzにおけるミキサ雑音温度を評価した結果について報告する。MIR-HEBMの設計と作製2.1極低温における中赤外光アンテナ・分布定数回路の設計中赤外光領域におけるアンテナ・分布定数回路の設計には、異常表皮効果を考慮した金属複素表面インピーダンスを電磁界シミュレータに導入する必要がある。そこでまず、アンテナ等を構成する金(Au)薄膜の複素屈折率をエリプソメータ(IR-VASE:J.A. Woolam社製)を用いて測定し、測定結果と実測した直流抵抗率から、室温における中赤外領域でのAuの複素表面インピーダンスを導出した。しかしMIR-HEBMが動作する10 K以下の極低温下では、金属電子の平均自由行程が増大し、中赤外光周波数の交番電場に対する電子運動の遅延が顕著となることで、複素表面インピーダンスの虚数成分(表面リアクタンス)の増大が予想される。表面リアクタンスの増大は、アンテナ長や分布定数線路内波長等の短縮につながり、回路設計に影響を与える。そこで室温におけるAu複素表面インピーダンスを基に、極低温下におけるAu表面リアクタンスの評価を試みた。温度低下に伴う表面リアクタンスの増大は、金属薄膜で中赤外光共振器を作製した場合、共振周波数の低下として観測できると考えた。そこで矩形Au薄膜共振器を作製し、10 Kまでの試料冷却が可能なフーリエ変換分光光度計(FTIR)を用いて、共振周波数の温度依存性の評価を試みた。ここで矩形共振器は、中赤外領域で十分高い透明度を有する酸化マグネシウム(MgO)単結晶基板上に、膜厚55 nmの金薄膜を用いて作製した。ここで計算に必要なMgOの屈折率は、中赤外における報告値(n = 1.624 @λ= 5.35 μm)[6]を利用している。図1に冷却FTIRを用いた共振周波数の温度依存性評価系を示す。最初に矩形Au薄膜共振器の設計共振周波数を約66 THzに設定。次に、実測した室温における金薄膜の複素表面インピーダンスを導入した電磁界シミュレータ(SONNET)を用いて矩形共振器の長さ及び幅を算出。それらは各1,300 nm、200 nmであった。FTIRでの測定において充分21.3 μm2.6 μm2.6 μm0.2 μmAu(55nm) resonators図1 冷却FTIRを用いた共振周波数の温度依存性評価系28   情報通信研究機構研究報告 Vol.66 No.2 (2020)2 光制御・ナノICT基盤技術  —基盤から応用まで—

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