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なS/N比を確保する目的で、この共振器をFTIR光束より大きい2.5×2.5 mm2の領域内X、Y方向に、相互に干渉しない2.6 μm間隔で配置した。矩形Au薄膜共振器の各種温度における透過率スペクトルを図2に示す。共振周波数は透過率スペクトル上の吸収特性として観測された。室温(300 K)においては、ほぼ設計共振周波数に一致する波数約2,120cm–1(64 THz)に明確な吸収特性が観測された。室温から10 Kへの冷却に伴い、共振周波数は低周波数側にシフトし、特に200 Kから100 Kへの温度変化の過程で、大きく変化している。サファイア基板(n = 1.622 @λ= 5.0 μm)[7]を用いた場合でも同様な温度依存性を示すことを確認しており、この温度依存性は、Au薄膜の表面リアクタンスの増加に起因すると考えている。ただし、その挙動に関する詳細は現在検討中である。室温から10 Kへの冷却に伴う共振周波数のシフト量は約3.3 THzであった。このシフト量をもたらすAu表面リアクタンスの増加量をシミュレーションと比較して導出した結果、室温の約1.6倍であることが分かった。このAu表面リアクタンスの増加量を考慮した電磁界シミュレーションにより、MIR-HEBMを構成するアンテナ・分布定数回路の設計を行った。図3に中赤外アンテナの設計寸法と計算されたアンテナインピーダンスZAnt.の周波数依存性を示す。今回MIR-HEBMを構成するアンテナとして、比較的高いアンテナインピーダンスが得られるツインスロットアンテナを採用している。設計周波数は61.3 THzで、シミュレーション結果を基に、アンテナ長及び幅を各々2,200 nm、200 nmとした。超伝導ストリップは図3(a)における給電点に配置する。給電点から見た、設計周波数におけるアンテナインピーダンス(ZAnt)は、ZAnt.= 250 – j6 Ωと見積もられた。2.2MIR-HEBMの作製図4にHEBMの構造と動作概要を示す。HEBMはアンテナの給電点に相当する位置の電極間に、長さ・幅共に数百nmで膜厚数 nmの超伝導ストリップを配置した構造をしている(図4(a))。電磁波を照射した場合、照射電力により超伝導ストリップ内の電子温度が上昇し、超伝導転移温度(TC)を越えた温度領域を中心に、常伝導領域(ホットスポット)が形成される(図4(b))。ここで照射電磁波として、局部発振源(LO)と共に信号源(Sig)を照射した場合、その差周波に相当するIF信号成分のホットスポットサイズの変調が生じ、インピーダンスの変化としてIF出力を獲得できる。HEBMを構成する超伝導ストリップには、数nmの極薄で高TCの超伝導極薄膜を用いる必要がある。高TCは超伝導緩和時間の短縮、極薄膜はフォノン拡散時間の短縮が目的であり、共にヘテロダインミキサとしての広IF帯域幅の実現に寄与する。従来のTHz帯HEBM開発においては、MgO単結晶基板上にエピタキシャル成長した窒化ニオブ(NbN)極薄膜(膜厚約図2 Au薄膜共振器の共振周波数の温度依存性Chokefilter304050607080901000100200300400500600700Real ZAnt. ()Frequency (THz)-600-500-400-300-200-100010061.3 THzRe(ZAnt.)Imag. ZAnt. ()Im(ZAnt.) ZAnt.=250- j6 Ω(a) 中赤外ツインスロットアンテナの設計(b) 給電点におけるアンテナインピーダンスの計算値図3 中赤外ツインスロットアンテナの設計292-3 中赤外超伝導ホットエレクトロンボロメータミキサの研究

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