HTML5 Webook
43/108

兼ね備えたディジタル回路と考えることができる。現在のSFQ回路では超伝導体をニオブ(Nb)、アルミニウム酸化膜を障壁層に用いたNb/AlOx/Nb接合が主に用いられている。国内では産業技術総合研究所のクリーンルーム「CRAVITY」にある試作ラインで集積回路チップが作製されている。これまでにFIFO(First-In First-Out)型のメモリであるシフトレジスタの120 GHz動作[18]、演算器等の50 GHz以上の動作が実証されている[19]。SFQ回路はその低消費電力性と高速動作性から省エネルギー情報処理への応用を目指して研究開発が進められてきたが、アナログ/ディジタル混在回路にも応用することが可能である。その一つに超伝導検出器の後段信号処理技術への応用がある。SFQ回路は4 Kまで冷却しないと動作しないため、計算機等への応用では常に冷却コストが足かせとなるが、超伝導検出器の後段信号処理はSFQ回路の極低温で動作するという特徴を逆手に取った応用である。SFQ回路を用いた極低温信号処理には、①増幅器を介さずにディジタル信号に変換できる、②ディジタル信号なので雑音耐性に優れる、③数十GHzという高速動作が可能であるため時分割多重が容易に行える、といった特長があり、複数の超伝導検出器の出力をSFQ回路で多重化することで極低温から室温までのケーブル数を減らすことができる。検出器のマルチピクセル化においては、室温に信号を取り出すためのケーブルを介した冷凍機への熱流入が問題となるため、読み出しのケーブル数の削減を可能とするSFQ信号処理技術は非常に有用である。また、ディジタル回路であるため、多重化以外にも様々な信号処理が可能で、検出器に新たな機能(付加価値)を付加することも可能である。SFQ回路を用いたSSPDシステムの高度化表1にマルチピクセルSSPDの応用と要求されるシステム性能、必要な後段信号処理についてまとめた。我々のプロジェクトでは、高速・大面積なSSPDが必要とされる空間光通信(深宇宙通信)や蛍光相関分光への応用を目指したシステム開発をそれぞれ宇宙通信研究室、フロンティア創造総合研究室のバイオICTの研究者と連携して進めており、そこでもSFQ信号処理が不可欠となっているが、必要とされる信号処理自体は多重化という単純なものである。本稿では、もう少し複雑な信号処理である光子同時計数と単一光子イメージングへの応用に絞ってSFQ信号処理技術について解説する。3.1同時計数システム光量子情報処理における重要な構成要素として2光子干渉があり、入射した二つの光子が干渉すると、二つある出力の一方に2個の光子が同時に出力されるため、2個の光子を同時計数することで干渉の有無を判別できる。忠実度の高い2光子干渉計の実現には、光子源のジッタの低減に加えて、検出器が高検出効率であること、検出器のジッタが小さいことが重要であり、SSPDは忠実度の高い2光子干渉を実現するうえで非常に有望な検出器である。しかしながら、室温のエレクトロニクスで同時計数を行う場合には、配線やコネクタ、計測器自身によるジッタが重畳するため、システム全体としてSSPDの低ジッタという利点が生かせない可能性がある。我々のプロジェクトでは、SFQ回路による極低温下での信号処理により時間精度の高い光子同時計数システムの実現を目指している。図2に設計したSFQ同時計数回路のブロックダイアグラムを示す。二つの入力ポートの入力端には磁気結合型DC/SFQ converter (MC-DC/SFQ converter)と呼ばれる入力インターフェース回路[20]があり、SSPDか3ジョセフソン接合バイアス抵抗シャント抵抗10 µm・・・・・・磁束量子ジョセフソン接合(JJ)バイアス電圧バイアス抵抗シャント抵抗バイアス電流(a)(b)図1 ジョセフソン伝送路(JTL)の(a) 等価回路図、及び(b) 顕微鏡写真表1マルチピクセルSSPDシステムの応用、要求されるシステム要求及び必要な後段信号処理392-4 単一磁束量子回路を用いた極低温信号処理システムの開発

元のページ  ../index.html#43

このブックを見る