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る。このイメージングシステム実現のためにイベント駆動型SFQエンコーダ回路によりSSPDの位置と時間情報を取得するイメージングシステムの開発を進めてきた。エンコーダ回路とは、光子を検出したピクセルの位置情報を符号化(コー化)して1本のケーブルで読み出すための回路である。また、この回路は光子を検出するごとに回路内部でクロックを生成するイベント駆動型の回路となっていることから、光子の位置情報だけでなく時間情報も取得できる回路になっている。図4(a)に64入力のイベント駆動型SFQエンコーダの顕微鏡写真を示す。従来の設計パラメータでは駆動させるためのバイアス電流量が300 mAを超えてしまい、冷凍機内の配線でのジュール熱により小型機械式冷凍機の温度が上昇してしまう可能性があった。そこでバイアス電流を削減させるために、JJのIcを従来の設計の1/2まで減少させ、駆動させるために必要な総バイアス電流量を200 mA以下まで抑制した。この回路は、SSPDのあるピクセルに対してその位置情報を符号化したディジタルコー(アレス)を時間情報と共に生成し、すべてのピクセルからの出力信号を1本のケーブルで読み出すことができる。大規模SSPDアレイをイメージングカメラとして使用するには、光子検出の空間的な分布をリアルタイムで観測・表示する必要がある。そのためSFQエンコーダだけでなく、SFQエンコーダの出力信号から出力値を換算し、2次元状に配置されたSSPDのどこに光子が入射したかをリアルタイムで表示するField programmable gate ar-ray (FPGA)の開発も行った。図4(b)に64 ピクセル SSPDアレイと64 ch イベント駆動型SFQエンコーダを用いて得られた光子検出数の分布を示す。これはFPGAを用いてリアルタイムで得られた光子検出分布の静止画像である。現状では、意味のあるイメージを再現したわけではないが、64 ピクセル SSPDのすべてのピクセルが同時に動作していることが確認できた。また、出力信号のタイミングジッタを評価し、64 chイベント駆動型SFQエンコーダを通して信号の処理・読出しを行なっても56.5 psという高時間精度を有していることを実証した[23]。我々はSSPDアレイ規模の更なる拡張を目指して、行列読出という新たな方式を採用して大規模SSPDアレイシステムの開発を進めている。行列読出方式自体はアメリカ国立標準技術研究所(National Institute of Standards and Technology: NIST)のグループによって提案された読出方式であり、N×Nのマトリクス状に配置されたSSPDアレイに対して行と列から2N本の読出配線で信号を読み出すことができる[24][25]。しかしながら、この方式でも100×100ピクセルのSSPDアレイを実現するためには、200本の読出しケーブルが必要で、冷凍機への実装は容易ではない。我々のプロジェクトでは、このNISTが提案した行列読出方式とSFQ信号処理を組み合わせて、行と列の出力をイベント駆動型SFQエンコーダでアレス情報をディジタルコーにエンコーして、行と列のそれぞれから2本のケーブルで室温に信号を取り出す方式を提案し実証実験を進めている。4×4ピクセルSSPDアレイを用いて原理実証に成功し[26]、現在32×32ピクセルの動作実証に取り組んでいる。32×32ピクセルに対応したSFQエンコーダに必要な入力配線数は2×32本であり、64chイベント駆動型SFQエンコーダと同じ入力数、つまりほぼ同じ規模の回路で実現することができる。我々は32×32ピクセルに対応した2×32chイベント駆動型SFQエンコーダの設計・作製を行い、評価を行った。図5(a)に回路の顕微鏡写真、図5(b)に得られた出力波形の一例を示す。動作テストは液体ヘリウムでチップを冷却し、パルスパターン発生器を用いて行と列のそれぞれの入力ポートに信号を入力して行った。全ての入力ポートをテストした結果、正しいアレスコーが出力されることを確認した[27]。現在、32×32 ピクセル SSPDアレイの試作を行っている段階で、近い将来SSPDアレイとSFQエンコーダを組み合わせて動作実証を行う予定である。(a)(b)図5(a) 2×32 ch イベント駆動型SFQエンコーダの顕微鏡写真。(b) 単独試験で得られたSFQ回路からの出力波形。行と列のアドレスデータが生成されている。412-4 単一磁束量子回路を用いた極低温信号処理システムの開発

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