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に注目している。これはHEMTの作製に用いる化合物半導体結晶構造において、図2に示すように電子走行層(チャネル層)と電子供給層(ーピング層)がーピングされていない層(スペーサー層)により空間的に分離されているため、電子がーピング原子(不純物)からの散乱を受けることなく、高い移動度や速度を示し、このことにより高速・高周波特性や低雑音特性を実現できるためである。化合物半導体結晶は分子線エピタキシー法(Molecu-lar Beam Epitaxy: MBE)や有機金属気相成長法(Met-al Organic Chemical Vapor Deposition: MOCVD)などにより“基板”となる単結晶半導体を下地として、下地の半導体結晶と同じ結晶面や結晶方位を持つ薄膜結晶を成長する(エピタキシャル成長)。MBEやMOCVDでは、成長する薄膜の膜厚をÅ(オングストローム、1 Åは100億分の1 m若しくは0.1 nm)の精度で制御可能であるが、格子定数(結晶間隔)のほぼ等しい結晶や温度による膨張係数の近い材料を選択する必要がある。例えばインジウム(In)の組成が53%のIn0.53Ga0.47As層は、格子定数が一致(格子整合)するインジウム・リン(InP)を基板としてエピタキシャル成長することにより結晶欠陥の少ない良質な結晶が得られる。一方、ガリウム砒素(GaAs)とは格子定数が大きく違う(格子不整合)ため、GaAsを基板とする場合はIn0.53Ga0.47As層とGaAs基板との間に中間層(バッファ層)を導入し、格子不整合による転位や欠陥が入りにくくする工夫がなされる。2.1HEMTの性能指数と高速・高周波化HEMTは電界効果トランジスタ(Field Effect Tran-sistor: FET)の一種で、ゲート電極に電圧(ゲート電圧Vgs)を加えることによりチャネル領域に生じる電界により電子または正孔の密度を制御し、ソース・レイン電極間の電流(ソース・レイン電流Ids)を制御するトランジスタで、図11で後述するオンウェハ・プロービング測定評価システムにてHEMTの性能指数である電流・電圧(I-V)曲線や相互コンダクタンス(gm)などのDC特性や、Sパラメータ(散乱パラメータ)や増幅率などの高周波特性を測定する。なお、Sパラメータは通過・反射電力特性を表し、利得や損失を求めるだけでなく、電流利得遮断周波数(fT)や最大発振周波数(fmax)などを見積もることが可能である。図2にHEMTの小信号等価回路を示す。fTは式(1)で定義され、gmは相互コンダクタンス、Cgsはゲート・ソース容量、Cgdはゲート・レイン容量をそれぞれ示し、gmは式(2)で定義される。なお、Idsはレイン・ソース電流、Vgsはゲート・ソース電圧、Rsはソース抵抗、gmiはFET内部の真性gmを示す。(1)(2)一方、fmaxは式(3)で定義され、Rgはゲート抵抗、gdsはレイン・コンダクタンスを示す。なお、fT及びfmaxを実測されたSパラメータから求める場合は、Hパラメータ¦h21¦2やMasonのユニラテラル電力利得Ugを求め、–20 dBの傾きでの直線フィッティングから0 dBとなる周波数を読み取ることにより求めることが可能である(図8)。  (3)以上より、高いfTを実現するには、gmの向上とCgs、Cgsなどの容量の低減が、高いfmaxの実現にはさらにRgやRsなどの抵抗の低減が必要不可欠である。2.2GaN系HEMTの高速・高周波化図3に示すように、GaNは化合物半導体の中でもバンギャップの大きな半導体(ワイバンギャップ半導体)で、GaNを用いた電子デバイスは、SiやGaAsなどと比較して熱伝導率が大きく、放熱性に優れるため、高温動作が可能である。さらに電子の飽和速度が高く、絶縁破壊電圧が高いため、高出力・高耐圧なパワーエレクトロニクス材料や半導体デバイスとしての応用が期待されている。GaN系HEMTの高速・高周波化には、InGaAs系HEMTと同様に、結晶構造やデバイス構造の最適化だけでなく、近年では薄膜バリア層、セルフアライン図3 半導体材料の格子定数とバンドギャップ473-1 ミリ波・テラヘルツ波帯無線通信を実現する化合物半導体電子デバイス技術と高周波計測技術

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