性を調査した結果、3 nm厚のIn0.18Al0.82Nバリア層を持つGaN基板上のIn0.18Al0.82N/AlN/GaN HEMTにおいて良好なピンチオフ特性を示す(図7)とともに、MIS型HEMT(Lg = 45 nm)ではfT = 237 GHz、fmax = 235 GHz(Vds = 3.0 V)を得たが、SiCやサファイア基板上のMIS型HEMTもほぼ同等のfT及びfmaxを示した。一方、MES型HEMT(Lg = 45 nm)ではfT = 228 GHz、fmax = 287 GHz(Vds = 3.0 V、Vgs = 0.4 V)を得た(図8)。この値はSiCやサファイア基板上のMES型HEMTと比べて約5%高い値であった。このことから、MIS若しくはMES構造のいずれにおいても基板材料による高周波特性には差がなく、ほぼ同等のfT及びfmaxを得られることが分かった。しかし、ショットキーゲートの順方向リーク電流についてはGaN基板の方が他の基板と比べて1桁小さく、より大きなオン電流(Ion)を得られる可能性を確認した。なお、fTはコンタクト・パッ電極の寄生容量を差し引いた真性fTである。図9(a)はGaN基板上MIS型HEMT(Lg = 45 nm、Wg = 50 µm×2、LSD = 0.75 µm)の周波数70 GHzにおける出力特性(Vds = 2.5 V)である。なお、出力特性(利得、飽和出力、出力電力密度、電力負荷効率PAEなど)はEHF帯オンウェハ・ロー・ソースプル評価測定システム(図10)を用いて測定した。この結果、約15dBm(32mW、ゲート幅1 mmあたり0.32W)を超える出力電力Poutを得るとともに、InGaAs系HEMT[26](Lg = 50 nm、Wg = 50 µm×2、LSD = 1.8µm、図9(b))に比べ、高いP1dB(10.8dBm)を示した。以上のような性能により、GaN-HEMTを含むGaN系デバイスは携帯電話基地局用高出力増幅器やIGBTインバータなどのDC・マイクロ波帯向けの製品、ミリ波・テラヘルツ波帯デバイスや集積回路、さらには5Gや5G以降の次世代移動体通信システム(Beyond 5Gなど)でのマイクロ波~ミリ波~テラヘルツ波帯で動作する高出力増幅器(Power Amplifier: PA)などに期待されている。また、5GなどでMIMO(Multiple-Input and Multi-ple-Output)無線通信やアクティブ電子走査アレイ(AESA)アンテナなどの技術が採用されると、より多くのPAが送信機に必要となる[27]。この場合、高価なSiCやGaNを基板として作製されたGaN-HEMTでは、チップコストの増加を伴う可能性がある。このため、SiC基板やGaN基板と比較して安価で大口径化が容易なSi基板上のGaN系HEMTも有効な選択肢である。このため、前述と同様のInAlN/AlN/GaN HEMTを高抵抗Si(111)基板上に作製した結果、Lg = 90 nm、Wg = 50 µm×2、LSD = 1 µmのMIS型HEMTでfT = 100 GHz、fmax = 245 GHz(Vds = 10 V、Vgs = −1.38 V)を達成し、得られたfmax値からは周波数80 GHzで(a)(b)図7 GaN基板上MES型GaN-HEMT(Lg = 45 nm)のDC特性 (a)Ids-Vds特性、(b)gm特性図8 GaN基板上MES型GaN-HEMT(Lg = 45 nm)の高周波特性50 情報通信研究機構研究報告 Vol.66 No.2 (2020)3 超高周波ICT基盤技術 —素子から回路まで—
元のページ ../index.html#54