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精度な回路設計のために各基板材料の誘電率を、回路の動作周波数帯で正確に求める必要がある。さらに、電子デバイスやモノリシック集積回路(MMIC)がミリ波・テラヘルツ波帯で動作可能になり、衝突防止や自動運転に必要不可欠な車載レーダーや5G及び5G以降の移動体通信システム(Beyond 5Gなど)におけるミリ波・テラヘルツ波帯の利活用、特に超高速無線通信などで送受信モジュールが広帯域化するにつれて、アンテナやレーム、パッケージなどの構成材料の誘電特性(比誘電率εr、誘電正接tanδ)を広帯域かつ正確に知りたいというニーズがある。このため、3.1のVNA及び周波数エクステンダと多軸マウントを組み合わせることにより誘電特性評価が可能で、この手法は自由空間Sパラメータ法(フリースペース法)[31]と呼ばれる。自由空間Sパラメータ法は空間に放射した電波を被測定物(Material Under Test: MUT)に照射し、その透過・反射特性(Sパラメータ)から誘電特性を求めるものである。なお、テラヘルツ波は電波と光の中間の性質を有することから、光で誘電率を測定する手法もあり、連続波を照射した透過光や反射光を測定する手法のほか、フェトム秒レーザーを用いたテラヘルツ波パルス光源を用いた時間領域分光法(Time-Domain Spectroscopy: TDS)などが知られており、誘電率や屈折率、膜厚などの材料定数を測定可能なシステムは既に市販されている。しかし、現状のTDSで発生できるテラヘルツ波の下限周波数は100GHz程度で、これ以下の帯域ではパルス光源の出力不足やディテクタの感度低下により、100GHz以下及び近傍の周波数帯域の誘電率を光で測定することは困難である。図15はミリ波・テラヘルツ波帯材料評価システムで、VNAと周波数エクステンダ、導波管アンテナ、そしてMUTマウントで構成される。なお、誘電率測定前には2ポートTRL(Thru-Reflect-Line)校正を行う必要があり、導波管アンテナとMUTの位置をLine長(波長λの1/4)以下の精度で制御しなければならず、導波管アンテナを接続する周波数エクステンダのマウントとMUTマウントにはそれぞれXYZθポジショナを装備し、特にXYZ軸はそれぞれ5 µmの分解能を有する。図16は測定した比誘電率の結果であり、140~220GHz(導波管規格:WR-5.1)で測定した3インチ径InPウェハ(650 µm厚)の比誘電率、75~110 GHz(同:WR-10)で測定したPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)フィルム(80µm厚)の比誘電率、さらに60~90GHz(同:WR-8)で測定したPS(ポリスチレン)フィルム(1.3 mm厚)の比誘電率を示す。なお、MUTマウントなどからの多重反射によるノイズが生じることからVNAのTime Domain Gatingを適用している。この結果、測定可能周波数の異なる周波数エクステンダや導波管アンテナを使用することにより、複数の周波数帯での誘電率測定が可能であること、厚さが数10µm~数mmの材料の誘電率測定が可能であることが分かった。なお、得られた比誘電率は低周波数で測定・報告されている比誘電率とほぼ同じ値を示した。まとめ未利用周波数帯であるミリ波・テラヘルツ波帯(30GHz〜3 THz)の開拓や無線通信利用に必要不可欠なIII-V族化合物半導体電子デバイスとして、100nm以下のLgを有するGaN-HEMTを作製し、このDC及び高周波特性を評価した。この結果、GaN基板上MES型HEMT(Lg = 45 nm、Wg = 50 µm×2、4図15ミリ波・テラヘルツ波帯材料評価システムの外観(電波吸収体を取り外して撮影)図16 自由空間Sパラメータ法による比誘電率533-1 ミリ波・テラヘルツ波帯無線通信を実現する化合物半導体電子デバイス技術と高周波計測技術

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