磁波として考えたときの定義としては、1 THzの1/10の周波数である100 GHzから、電波法の対象となる周波数の上限である3 THzまでを指すことが多い(図2)。テラヘルツ波は、ミリ波(波長1~10mm、周波数30~300 GHz)より低い周波数のいわゆる「電波」と、赤外線より高い周波数のいわゆる「光」の、狭間の周波数にあたり、電波と光それぞれで開発された技術や応用が直接的には適用できず、開発や利用が遅れていた周波数帯である。近年、電波及び光の双方のデバイス技術の発展や、それらを組み合わせて活用する技術が向上したことによって、テラヘルツ波を扱うための技術や手段が確立されつつあり、未利用だったテラヘルツ波を利活用する機運が高まっている。テラヘルツ波の応用としては、計測やイメージングの分野での利用が先行して進んでいるが、最近になって無線通信への応用に関して急速に関心が高まっており、積極的に技術開発が進められている。テラヘルツ波無線通信の応用としては、図3に示すような近接データダウンロー(キオスクモデル、タッチダウンロー)、半導体チップ間通信、ボー(プリント基板)間通信、筐きょう体たい間通信(データセンタのサーバ間通信等)、4K/8K等の高精細映像伝送、モバイルネットワーク内通信などが想定されている[2][3]。本稿では、テラヘルツ波無線通信の特長と、300 GHz程度の周波数における技術開発及びその標準化活動について述べる。テラヘルツ波無線通信の特長テラヘルツ波を無線通信に用いる最も大きな動機は、情報伝送レートの増大への期待である。前述のように、最近のモバイル無線通信や無線LANのトレンを見ると、1 Gb/s程度の伝送レートが実用化され、次世代システムに向けて10 Gb/s程度が目指されている。無線通信の高速化の需要はとどまることを知らず、更なる将来の無線通信の需要として100 Gb/s以上が望まれることは自明である。無線通信の伝送レートを高めるための技術的な手段としては、1) 通信に用いる周波数帯の幅(周波数帯域幅)を広る、2) データ変復調の「多値」数を増やす、の2つが挙られる。後者については無線信号の前処理及び後処理における変復調の技術なので、基本的にどの周波数帯の通信においても適用可能であり、特定の周波数についての得失はあまりない。テラヘルツ波にかかる主な期待は、前者の広い周波数帯域幅を利用できる可能性である。無線通信に用いられる電波については、周波数帯ごとの用途の割当てが国際的な規定に基づいて各国が法令で定めているが、現在までに周波数の割当てが定められているのは275 GHz以下の周波数までである。275 GHz以上は確定的な周波数割当てがされておらず、今後の調整次第で広い帯域が無線通信で利用できる可能性がある。このように、テラヘルツ波を無線通信に用いる利点として最も大きいのは、従来技術より広い周波数帯域幅を利用できる可能性が高いことである。「広帯域」には2つの側面が考えられるが、その一つは、大気吸収21PHz100THz10THz1THz100GHz10GHz30m300nm3m3cm1GHz300m3mm30cm3THz30THz300THz300GHz30GHz3GHz10cm1cm1mm100m10m1m電波ミリ波テラヘルツ波赤外線可視光線マイクロ波【電波法】第二条この法律及びこの法律に基づく命令の規定の解釈に関しては、次の定義に従うものとする。一「電波」とは、三百万メガヘルツ以下の周波数の電磁波をいう。(遠赤外線)周波数波長KIOSK downloadingShort-range fixed wireless accessWireless network between devices or datacenters8K video transmission図2 テラヘルツ波と周波数の対応図3 テラヘルツ波無線の応用例58 情報通信研究機構研究報告 Vol.66 No.2 (2020)3 超高周波ICT基盤技術 —素子から回路まで—
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