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たものを、1つのシリコンチップに統合し「ワンチップトランシーバ(送受信)」を実現した。これまで受信回路の性能制限により伝送速度が32 Gb/sにとどまっていたが、受信回路の性能を向上させるとともに、送信回路にも改良を加え、トランシーバとして大幅なデータ伝送速度の向上を達成した。ワンチップ化により、電子機器に搭載する際の部品数の削減とシリコンチップ面積の削減によってコストダウンが可能となり、より実用化に有利となる。従来に比べデータ伝送速度を大幅に向上させるとともに、実用化に必須の「ワンチップ化」を達成したことで、300 GHz帯無線通信の実用化がより近付いたと考えられる。スマートフォンなどで広く用いられている無線トランシーバと同様にシリコンCMOS集積回路で300GHz帯を用いた超高速データ通信が可能となったことにより、2020年から商用サービスが開始されている第5世代移動通信システムの次の世代のシステムであるBeyond 5Gモバイル通信の無線トランシーバに利用できる可能性が高くなった。3.3進行波管による300 GHz増幅器技術半導体電子デバイスを用いた増幅器や送受信回路では、出力電力はシリコンCMOSで数100µW、InPで10 mW程度である。出力電力を更に高めるために、前述の総務省「テラヘルツ波デバイス基盤技術の研究開発」の一環として、NECネットワーク・センサ株式会社と共同で、真空管の一種である進行波管を用いた増幅器(TWTA: Traveling Wave Tube Amplifier)を300GHzで実現するための研究開発が実施された[19][20]。TWTAは、遅波回路と呼ばれる真空に保たれた導波管構造の中を伝搬する高周波信号を、電子線との相互作用によって増幅させるものであり、従来からマイクロ波やミリ波では宇宙用途や大電力用途等の電力増幅器として利用されている。これを300 GHz帯に適用するためには、波長が短くなることに対応して遅波回路を微小かつ高精度に作製する必要があり、MEMS(Micro Electro-Mechanical System)技術を用いて加工するなどの工夫が施された。これによって、1 W級の増幅器の実現が目指されている。標準化国際電気通信連合 無線通信部門(ITU-R: Interna-tional Telecommunication Union Radiocommunica-tion Sector)では3~4年に一度、世界無線会議(WRC: World Radiocommunications Conference)を開催し、無線通信規則(RR: Radio Regulations)の改正等を議論している。RRでは周波数範囲ごとに利用が可能な各無線業務への周波数割当て(分配:allocation)が地域ごとに規定されているが、275 GHz以上の周波数帯ではこれまで各無線業務への「分配」が行われておらず、275~1000 GHzの周波数範囲で利用できる電波天文やリモートセンシングといった受動業務応用に対する周波数帯が脚注5.565のなかで「特定」(identification)されているのみであった[21]。「特定」とは、例えば既に移動業務に「分配」されている周波数帯の一部又は全てを特定の移動業務応用(例えば、IMT)にRRの脚注で規定することによって、シームレスに各地域間又は各国間でその無線デバイスを使用できるようにするために主に用いられている。したがって、275 GHz以上の周波数帯に対するグローバルな規定も各無線業務応用に対する「特定」で行われている。2015年のWRC-15に4図8開発した300 GHzワンチップトランシーバ集積回路のシリコンチップ写真図7 シングルエンド、差動入力増幅器の(a)従来の段間整合回路と(b)開発した段間整合回路、(c)開発した増幅器の小信号特性62   情報通信研究機構研究報告 Vol.66 No.2 (2020)3 超高周波ICT基盤技術  —素子から回路まで—

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