おける将来のRRの改正に向けた議論の結果、2019年のWRC-19の議題のうち、議題番号1.15で「決議767(WRC-15)に従って、275 ~ 450 GHzで運用する陸上移動業務応用と固定業務応用を使用する主管庁のために周波数帯を特定する検討を行う」こととなった[22]。WRC-19に向けて、ITU-Rで詳細検討を担当する組織であるWorking Partyにおいて、NICTなどから提供した技術情報に基づいて日本国からの寄書を多数入力し、テラヘルツ無線の業務応用に関する様々なユースケースと想定される技術要件[23][24]、無線信号の屋内伝搬モデル[25]、共用両立性の検討[26]等が行われた。これらの結果を受けて、WRC-19において、275~296GHz, 306~313 GHz, 318~333 GHz, 356~450GHzを陸上移動業務応用と固定業務応用に特定する新脚注5.564AがRRに追加された[27]。これまでの脚注5.565は変更なしで維持されており、275~1000GHz帯で特定されている受動業務は能動業務の使用を妨害しない規定になっている。ただし、296~306 GHz, 313~318 GHz, 333~356 GHzは新脚注5.564Aにより、共用両立性の可能性が示されるまでは陸上移動業務と固定業務に使用することはできない。WRC-19で新脚注5.564Aにて特定された周波数帯と脚注5.565で特定されている受動業務の周波数帯比較を図9に示す。また、無線通信の相互接続仕様で大きな影響力を持つIEEE802委員会(IEEE 802 LAN/MAN Standards Committee)では、300 GHz帯を用いた100 Gb/s級ポイント間無線通信の標準規格を検討するタスクグループIEEE802.15.3dが2014年5月に設立され、252~ 325 GHzを用いる無線通信システムのPHY層(物理層)とMAC層(データリンク層)の標準規格が策定され、2017年10月にIEEE Std 802.15.3dとしてリリースされた[28]。この規格では、ユースケースとしてキオスクダウンロー、チップ間・ボー間通信、データセンタ内無線通信、モバイルフロントホール・バックホールが想定されている。ITU-RでのRRの脚注5.564Aの確定を受けて、IEEE802委員会でもIEEE Std 802.15.3dの次期バーションとして、周波数チャネルの見直しや、ビームステアリングを含んだ規格の議論が進むと予想される。まとめ大容量のデータを無線通信により簡単にやり取りしたいという要求の高まりを受けて、従来のマイクロ波やミリ波に続く新たな周波数帯としてテラヘルツ波を用いた無線通信の期待が高まっている。本稿では、テラヘルツ波による無線通信の特長を述べるとともに、それを実現するための研究開発及び標準化活動についての動向を紹介した。テラヘルツ波を発生する技術ではフォトニクスの応用が先行していたが、近年、電子デバイスによる300 GHz帯の研究開発が総務省のプロジェクト等により活発化し、InP系等の化合物半導体デバイスによる開発に始まり、シリコンCMOS集積回路によるRFフロントエンや、300 GHz帯に対応した進行波管増幅器の開発も実施されていることを述べた。技術的な研究開発と並行して、ITU-Rにおける周波数割当ての検討や、IEEE802での世界初の300GHz帯無線通信規格の策定も進んでいることを示した。テラヘルツ波の特長としては従来にない広い帯域を用いることができる可能性が挙られるが、同時に伝搬損失やアンテナ利得など様々な要件のトレーオフがあり、従来利用してきた周波数帯の常識にとらわれずに新たな発想や利活用を検討することが重要である。謝辞本稿で紹介した成果の一部は、総務省電波資源拡大のための研究開発(JPJ000254)の「テラヘルツ波デバイス基盤技術の研究開発」によるものであり、NICTと共同で受託している各機関(日本電信電話株式会社、富士通株式会社、国立大学法人広島大学、パナソニック株式会社)による成果が含まれている。本研究開発5275GHz275-323 GHz388-424 GHz275-296GHz295315335355375395415435450GHz327-371 GHz275-286 GHz296-306 GHz313-356 GHz361-365GHz369-392GHz397-399 GHz409-411 GHz416-434 GHz439-467 GHz426-442 GHz脚注5.565による受動業務応用(地球探査衛星業務(受動)及び電波天文業務)への周波数帯特定306-313 GHz318-333GHz356-450 GHz新脚注5.564Aによる陸上移動・固定業務応用への周波数帯特定図9 WRC-19で新脚注5.564Aにて特定された周波数帯と脚注5.565で特定されている受動業務の周波数帯比較633-2 テラヘルツ無線通信基盤技術
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