まえがき70年以上にわたる半導体トランジスタの歴史を振り返ると、材料の有する諸特性の根幹とも言えるバンギャップに注目し、既存材料には無いバンギャップを有する新材料を開拓し、それを使いこなすことこそが、一貫して半導体材料、デバイス研究開発の基本戦略であった。実際、ゲルマニウム、シリコン (Si) から始まり、主にバンギャップエネルギーが大きくなる方向[ガリウム砒素、シリコンカーバイ (SiC)、窒化ガリウム (GaN)]へと、新たな半導体材料及びその応用に関する研究開発が進められてきた。NICTは、その存在自体は長く知られていたが、デバイス開発に関してはほぼ手つかずの状態にあった新酸化物半導体材料酸化ガリウム (Ga2O3) に着目し、2011年世界に先駆けてそのトランジスタ開発、動作実証に成功した[1]。Ga2O3は、様々な物性の中でも半導体の最も基本的な特性に相当するバンギャップエネルギーが、全半導体の中で唯一無二の4.5 eVという値を取ることに一番の特長がある[2]。実際、そのバンギャップエネルギーは、ワイバンギャップ半導体の代表的存在であるSiCやGaNの3.3~3.4 eVよりも更に1 eV程度大きな値となる。このGa2O3の4.5 eVよりも更に大きなバンギャップエネルギーを有する材料の場合、不純物ーピングによるキャリア濃度の精密制御が不可能、つまり半導体ではなく絶縁体になってしまうと考えられる。そのためGa2O3が、デバイス応用可能な最後の単結晶バルク半導体である可能性は高いと言える。この大きなバンギャップに起因する物性から期待されるデバイス応用は、様々な電力変換に用いられるパワーデバイス及び極限環境と呼ばれる通常半導体デバイスの利用が想定されていない過酷な環境での無線通信、信号処理デバイスなどが挙られる。省エネルギー化は、将来長きにわたる持続可能な電力供給の確保、温室効果ガス排出量の削減のため、現在世界的な社会課題として挙られている。電力変換損失の削減は、このエネルギー課題を解決するのに最も有効な手段の一つである。このような社会情勢にある現在、広く一般に用いられているSiパワーデバイスがその性能限界に近づいていることもあり、ワイバンギャップ半導体パワーデバイス開発が活発に行われている。我々が研究開発を行うGa2O3パワーデバイ1酸化ガリウム (Ga2O3) は、次世代パワーデバイス、極限環境無線通信デバイス応用に適した優れた物性を有する。また、原理的に大口径かつ高品質な単結晶基板を、融液成長法により安価かつ簡便に製造することができるという産業応用上の魅力も併せ持つ。本稿では、研究背景、Ga2O3の物性について述べた後、未来ICT研究所グリーンICTデバイス先端開発センターで行ってきたGa2O3電子デバイス研究開発の現状について紹介する。Ga2O3 has excellent material properties suitable for next-generation power and extreme-envi-ronment wireless communication device applications. Furthermore, it has an attractive feature from the viewpoint of industrial application that large-diameter, high-quality single-crystal wafers can be easily produced at low cost by melt growth methods. In this paper, after describing research back-ground and material properties of Ga2O3, we will introduce current status of research and develop-ment on Ga2O3 electronic devices, which have been conducted at Green ICT Device Advanced Development Center, Advanced ICT Research Institute.4 環境制御ICT基盤技術 —基盤から社会展開まで—4Environment Control ICT Basic Research — from Researches to Applications —4-1 酸化ガリウム電子デバイス研究開発4-1Research and Development on Gallium Oxide Electronic Devices東脇正高 上村崇史HIGASHIWAKI Masataka and KAMIMURA Takafumi674 環境制御ICT基盤技術 —基盤から社会展開まで—
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