ノーマリーオフ動作を可能とする縦型エンハンスメントモーGa2O3トランジスタの作製、動作実証に成功した[18]。デバイス特性は比較的良好で、レイン電流オン/オフ比も7桁と大きな値を保つことができている。しかしながら、Ga2O3薄膜中に存在する電荷トラップによると思われる問題点も確認された。今後、デバイス構造の最適化及び半導体薄膜の高品質化などにより、これらの問題解決に取り組んでいく。3.2Ga2O3ショットキーバリアダイオード開発ダイオーは、一般的に整流器として用いられる。トランジスタと同様に、高電圧、大電流、大電力用途には縦型ダイオー構造が望ましい。我々が、東京農工大、三菱電機(株)と共同開発した縦型Ga2O3ショットキーバリアダイオーの断面構造模式図を図3に示す[19]。トランジスタと同様、東京農工大にてn型Ga2O3リフト層をHVPE成長したエピ基板を用いて、NICTでデバイスプロセス、特性評価を行った。上述縦型トランジスタでも用いた、Nイオン注入ーピングによりガーリングを形成している点に特徴がある。ガーリングには、アノー電極端への電界集中を防止し、デバイス耐圧を向上させる効果が期待される。図4に、作製したガーリング付き縦型Ga2O3ショットキーバリアダイオーの電流密度–電圧特性を示す。ガーリングの効果により、デバイス逆方向耐圧は1,076 V[20] から1,430 Vへと大幅な向上を果たした。なお、このGa2O3ショットキーバリアダイオーで記録したオン抵抗 (4.7 mΩ∙cm2)、逆方向耐圧 (1,430 V) の両方で決まる総合的なデバイス特性は世界最高レベルであった。Ga2O3極限環境無線通信トランジスタ開発4.1Ga2O3トランジスタの耐放射線性現在、極限環境エレクトロニクスと呼ばれる、高温、多湿、腐食性ガス雰囲気、放射線下などの過酷な環境において利用可能な半導体デバイス、回路の必要性が増している。それらの多くは、人間が立ち入ることができない環境での作業において、現場の状況を離れた場所でリアルタイムに把握するための各種センサー(カメラ、温度計、放射線量計など)と組み合わせて利用される。比較的身近な応用例として、自動車・航空機のエンジンルームから、未開拓領域に該当する地下資源探査、宇宙空間まで、その用途は多岐にわたる。また、高温、放射線両方への高い耐性が必要な原子力施設や、災害時に活躍するロボットなどからも要求がある。これら尽きることなく社会的に求められる、より高度な情報インフラを幅広い分野で実現するためには、既存の半導体デバイス技術を更に改良、発展させるだけにとどまらず、新しい半導体材料を用いた革新4図3ガードリングを有する縦型Ga2O3ショットキーバリアダイオードの断面構造模式図図4ガードリング付き縦型Ga2O3ショットキーバリアダイオードの電流密度–電圧特性図5横型Ga2O3電界効果トランジスタの電流–電圧出力特性のガンマ線積算照射線量依存性70 情報通信研究機構研究報告 Vol.66 No.2 (2020)4 環境制御ICT基盤技術 —基盤から社会展開まで—
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