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的とも言えるデバイス技術を開拓していく研究開発が必要となる。Ga2O3は、その材料特性から、上述のような過酷な環境においても安定かつ特性劣化無く動作し続けることが期待される。我々は、Ga2O3デバイスの基礎的な放射線耐性を確認するための実験を、国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構と共同で行った。具体的には、Ga2O3トランジスタへのガンマ線照射を複数回行い、照射後の様々なデバイス特性の劣化の有無を確認した[21]。結果、1.6 MGyという非常に高い積算量のガンマ線照射後も、デバイス動作に問題はなく、その特性劣化もほとんど認められなかった(図5)。一般的に、宇宙応用には0.1 MGy以上、原子炉応用には1 MGy以上のガンマ線耐性が求められる。これらの結果から、Ga2O3が耐放射線デバイス用途の半導体材料として高いポテンシャルを有することを確認した。4.2極限環境無線通信応用に向けた高周波Ga2O3トランジスタ上述のように、我々は、極限環境デバイスとしてのGa2O3トランジスタの有する高い可能性に着目し、具体的な実用用途、周波数帯を検討することを目的とした高周波Ga2O3トランジスタの探索的研究開発を実施している。2019年、ゲート長が50~1,000 nmの横型Ga2O3トランジスタを作製し、その高周波デバイス特性を系統的に評価した[22]。このトランジスタは、主に無線通信応用を見据えたものである。図6(a)、 (b)に、作製したトランジスタの断面構造模式図及びゲート部分(ゲート長150nm)の走査型電子顕微鏡像をそれぞれ示す。すべてのゲート長において、おおむね良好なデバイス特性が得られた。ここでは、ゲート長200 nmのトランジスタの高周波デバイス特性について紹介する。高周波動作の限界周波数に相当する電流利得遮断周波数 (current-gain cutoff frequency: fT) は9 GHz、高周波電力増幅の重要な性能指数である最大発信周波数 (fmax) は27 GHzと共に優れた値を記録した。特にfmaxは、これまでのGa2O3トランジスタ報告最高値であった17 GHzを、約60%増と大きく上回るものであった[23]。これらデバイス特性から、少なくとも一般に無線通信に用いられる1~10 GHz程度の周波数において、Ga2O3トランジスタが十分に利用可能であることが明らかになった。今後、極限環境下での無線通信デバイス用途を念頭に、高周波Ga2O3トランジスタの更なる特性改善に向けた研究開発を進めていく。むすびGa2O3は、NICTが見いだし、世界初のGa2O3トランジスタ動作実証を果たした新半導体材料である。我々が果たしたいくつかのブレークスルーと呼べる技術、成果の報告が呼び水となって、現在ではGa2O3デ5(a)(b)図6 高周波Ga2O3電界効果トランジスタの (a) 断面構造模式図、(b) ゲート部分の走査型電子顕微鏡像(ゲート長 150 nm)図7ゲート長200 nmのGa2O3電界効果トランジスタのRF小信号特性(¦H21¦2: 電流利得、MSG/MAG: 最大安定電力利得/最大有能電力利得、Ug: 単方向電力利得)714-1 酸化ガリウム電子デバイス研究開発

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