外LEDを使えば、塩素などの薬剤を用いずに、有害な細菌やウィルスなどを効果的に殺菌(不活性化)できる。中でも特に、波長265 nm帯の深紫外LEDは、発光波長がDNAの吸収ピークと重なり最も強い光殺菌作用を有することから[9]、ウィルス感染予防や水の浄化などの殺菌用途において重要な開発ターゲットとなっている。また通信や殺菌用途以外にも深紫外LEDは、光加工・3Dプリンタの高精細化や樹脂の硬化、印刷、環境汚染物質の分解、分光分析、医療応用など、多様な技術領域において今後重要な役割を果たしていくものと期待されている。従来、深紫外光を照射する光源として、産業的には主に水銀ランプが用いられてきた。水銀ランプは高出力かつ安価であるため現在も広く利用されているが、人体や環境に有害な水銀を含み環境負荷の高い製品である。2017年、水銀廃絶に向け「水銀に関する水俣条約」が発効し、2020年より、水銀を含む製品の製造や輸出入について段階的な制限規制が始まっている。このため、水銀ランプに代わる小型・低環境負荷固体光源として深紫外LEDへの期待が飛躍的に高まっている(図1)。しかしながらこれまで、光出力とコストの両面で水銀ランプに圧倒的な優位性があり、本格的に代替が進むような状況には至っていない。今後、情報通信応用から殺菌、光加工、水銀ランプ代替といったUV-C高出力ニーズに、コストを抑えつつ対応していくためには、深紫外LEDの単チップ当たりの光出力をいかに高めていくかが最重要課題の一つとなる。本稿では、深紫外LEDの高出力化を阻んでいる幾つかの要因について述べたうえで、独自のナノ光構造技術に立脚し、単チップで小型低圧水銀ランプに迫る光出力500 mW超(世界最高出力)の265 nm帯深紫外LEDの実証に成功した研究成果を中心に紹介する。深紫外LEDの技術課題2.1高密度な結晶欠陥生成深紫外LEDは、窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)から構成される。窒化アルミニウム(AlN)と窒化ガリウム(GaN)の混晶組成比を変えることで、その発光波長を広範囲(210~365 nm)で任意に制御でき、深紫外のほぼ全域をカバーする。AlGaN系深紫外LEDは通常、有機金属気相成長(Metal Organic Chemical Vapor Deposition:MOCVD)法を用いてサファイア基板上に形成される。しかし従来、AlGaN層とサファイア基板との格子定数差に起因し、結晶内部に109cm–2以上という非常に高密度な結晶欠陥(貫通転位)が発生し、素子の性能が大きく低下してしまう問題を長らく抱えていた(図2(a))。この課題に対し、107~108cm–2程度まで貫通転位を低減するパターン形成されたサファイア基板上の結晶成長技術や[10]、貫通転位がほぼ発生しない(< 106cm–2)AlN基板上LED形成技術等が[11][12]、近年多数報告されている。これらの結晶品質の向上によって、結晶内部の発光効率については大幅に改善されてきている。最近、我々は電流注入時の内部量子効率(Internal Quantum Efficiency: IQE)やキャリア注入効率(Carrier Injection Efficiency: CIE)の値を定量化する新しい技術を開発し、連続駆動中の265 nm帯AlN基板上深紫外LEDのIQEが78%とい2可視光紫外線X線赤外線短長強弱エネルギーUV-CUV-BUV-A波長100nm200nm280nm320nm380nm780nm深紫外領域深紫外LED水銀ランプ大掛かりな装置、短寿命、人体・環境に有害従来の深紫外光源(ガス光源)圧倒的な小型化、水銀フリー、波長選択性、低環境負荷、長寿命図1 深紫外波長領域の従来光源と深紫外LEDの必要性76 情報通信研究機構研究報告 Vol.66 No.2 (2020)4 環境制御ICT基盤技術 —基盤から社会展開まで—
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