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う、青色LEDに匹敵する極めて高い値にまで達していることを報告している[13]。2.2p-AlGaN中の深いアクセプター準位しかし、これらの近年の研究進展により結晶品質に係る問題が大きく改善された一方で、依然として深紫外LEDの高出力化を阻んでいる幾つかの重大な課題が残されている。まず、265 nm帯のようなAl組成比の高いAlGaN系深紫外LEDでは、p型層として形成されるp-AlGaN中のアクセプター準位(ーパント:Mg)が非常に深くなる[14]。一般に、Al組成比率70%程度において、その活性化エネルギーは400 meV前後にもなる[15]。このため室温でのホール濃度が極めて低く、p側金属電極との間の低抵抗なオーミック接合を得ることが難しい。この問題を避けるために、p-AlGaN上に、高ホール濃度のp-GaN層をp電極との間のコンタクト層として形成することが一般的である。しかしp-GaNはオーミック接合を可能とする一方で、深紫外光を完全に吸収する。つまり、このような265nm帯深紫外LEDでは、活性層から放射された光のうちp電極方向に放射された約半分の光は、ほとんど全て吸収され損失となる。また、可視光LEDと異なり深紫外領域では、ITO(Indium-Tin Oxide)のような効率よく電流拡散を行える透明電極も存在しない。このため、深紫外LEDでは必然的に、発光した光を基板側から取り出すフリップチップ実装と呼ばれる配置をとる。2.3極めて低い光取出し効率深紫外LEDでは、深紫外光によって樹脂が劣化するため、可視光LEDのような透明・半球状の樹脂封止技術の利用は難しい。このため、基板と空気との界面で大きな屈折率差による全反射が生じ、光を取り出せる角度領域が狭い。さらに深紫外LEDでは一般的に、p-GaNや電極などによる内部吸収が大きいため、基板界面で全反射された光を再度デバイス裏面から折り返して取り出すマルチパスの利用も難しい。特に、AlN基板は屈折率が高く(n=2.29 @265 nm)、光取出し角度が狭い(臨界角:25.9°)うえに、基板自体が深紫外光をある程度吸収する性質を持つため、この問題はより深刻となる。ハイライ気相成長法で作製した比較的透明度の高いAlN基板を用いても、265 nm帯では10 cm–1程度の吸収係数を有する[16]。3次元時間領域有限差分(Finite-Difference Time-Domain: FDTD)法により計算を行うと、AlN基板上深紫外LEDの光取出し効率(Light Extract Efficiency: LEE)は、僅か3%程度と極めて低い。これらの原因によって、せっかく転位欠陥密度を下て高い内部量子効率が得られても、活性層で発せられた光のほとんどは、外部に取り出される前に結晶内部で再吸収され、熱として失活してしまう。このジレンマの克服が深紫外LEDの最大の課題である。2.4光出力飽和現象(効率ドループ)265 nm帯AlGaN系深紫外LEDでは、透明性を維持するために、電流を注入するためのクラッ層のAlの組成比率が70%程度以上と極めて高くなるため、p型n型どちらも電気抵抗率が高くなる。このため、p電極とn電極の間の距離が最も短くなる電極メサ構造のエッジ近傍に電流が集中しやすく、印加電流の増加に伴い電流密度が非常に高くなる問題が発生する[17][18]。またさらに前述のとおり、LEEが極めて低いため、その印加電力の大部分が、素子内部で局所的に熱に変換されてしまう。この結果、注入電流の増加に伴ってLED活性層温度の急激な上昇(自己発熱)と、量子効率の低下が起こり、従来の可視や近紫外のLEDと比べ、光出力が極めて早く飽和してしまう現象(ループ)が生じる。高出力化を実現するうえでは深刻な課題である。高出力深紫外LEDの開発3.1ナノ光構造を駆使した高光取出し技術一般に、半導体のバンギャップの大きさとーパント制御による電気的伝導性(及びn/p型両極性)とは相反する性質となる。短波長化や透明性を優先すれば、3500nm1µm全反射転位内部吸収活性層(MQW)(a)(c)p-AlGaN/p-GaNAlNナノ光構造(光取出し面)(b)図2 (a)深紫外LED技術課題の模式図、(b)本研究で用いたナノ光構造付加型深紫外LEDデバイス構造の模式図と(c)その電子顕微鏡写真774-2-1 深紫外固体光源デバイス技術の研究開発

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