トレーオフで導電性に不利が生じる。また、AlN基板を用いて格子定数差の解消、貫通転位密度の低減を優先すれば、光取出し特性の面で大きな問題を抱えてしまう。よって、深紫外LEDにおいては選択する材料的なアプローチとともに、その裏側に発現する物性的弱点をデバイス構造としてどう補完していくのかという総合的なデザインが求められる。本研究では、最も殺菌性の高い265 nm帯の光を発し、高出力で高安定電流駆動の深紫外LEDを実現するため、素子内にAlN基板やp-GaNコンタクト層などの光吸収媒質が含まれていても、活性層から放射された深紫外光を、シングルパスで吸収される前に素子外部に効果的に取出せる手法の創出を目指した。我々はIQEを高められるAlN基板上LED構造を用いて、光取出し面となるAlN基板表面に、全反射を抑制するAlNナノ光構造を組込んだ深紫外LEDを開発した(図2(b))。ナノ光構造として、フォトニック結晶と呼ばれる波長スケールの2次元周期凹凸構造と、波長の1/10程度のサイズのサブ波長テクスチャ構造を組み合わせた、全く新たなハイブリッ構造を設計した。作製したハイブリッ型AlNナノ光構造の電子顕微鏡写真を図2(c)に示す。このハイブリッ型ナノ光構造では、波長スケールのフォトニック結晶構造により深紫外域の光分散を人為的に制御すると同時に、サブ波長テクスチャ構造により界面全反射時のエバネッセント光の生成とその界面導波特性を制御した。図3に光伝播の様子を計算した結果を示す。サブ波長テクスチャ構造の近傍で生成されたエバネッセント光は、最適に設計されたAlNコーンの側面を昇るように導波していき、その頂点で高効率に外部伝搬モーとカップリングする様子が見て取れる。これらの極めてユニークな原理によって、本来、全反射され内部吸収されてしまう光成分の多くを、外部に取り出すことができる。光取出しに関する効果を評価した結果を図4に示す。従来素子(表面加工無し)と比較し、光取出し効率が、約2倍と大幅に向上した。これは、最適化されたフォトニック結晶構造単体はもとより、表面ラフニング構造や、マイクロレンズ構造、モスアイ(蛾の眼)構造など、従来提案されてきた種々の光取出し構造よりも、40~50%以上も高い結果である[5]。3.2ナノ構造付加型発光デバイスの大面積化・高スループット化技術265 nm帯AlGaN系深紫外LEDでは、先に述べたとおり印加電流の増加に伴い光出力が極めて早く飽和してしまうループ現象が生じる。このため、高出力化を実現するうえでは、高電流注入時の電流密度を低減するため、実効発光面積の拡大に取り組むことも重要である。まず、深紫外LEDデバイス内の局所電流集中の問題に対して、我々は電流拡散や自己発熱特性について電流–熱連成計算解析を行い、大面積化した場合でもエッジ近傍に電流が集中せず、発光層への均一な電流拡散を可能とする電極メサ構造を設計した[19]。次に、発光領域の増大に伴い、光取出し効率を向上させるAlN基板上のナノ光取出し構造についても大面積化することが必要となる。これまでの研究ではナノサイズ加工に対し、精度や設計柔軟性の面から電子ビーム(EB)描画技術を用いていたが、 LEDのような低コスト化が何よりも重視されるプロセスには不向きである。そこで本研究では、将来の産業応用を見据え、EB描画ではなく大面積・高スループット加工・低コスト化が実現可能なナノインプリント技術を用いて作製した。AlNのような加工の難しい材料を用いてナノ構造を駆使した光出力の向上を目指しながら、図4 265 nm帯深紫外LEDのAlNナノ光構造付加による光取出し向上率(a)図3 ハイブリッド型AlNナノ光構造周辺の電場分布(波長265nm)の計算結果(a)計算構造モデル、(b)電場分布(b)78 情報通信研究機構研究報告 Vol.66 No.2 (2020)4 環境制御ICT基盤技術 —基盤から社会展開まで—
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